コラム  外交・安全保障  2014.09.08

米・中・イスラム国関係

 オバマ大統領はニューヨークタイムズ紙によるインタビュー(8月8日付 Friedman記者の記事)で、「中国について大統領はどうするつもりなのか。中国は現在イラクで最大のエネルギー投資国である。大統領は、中国に対して、貴国はこの世界でただ乗りでなく、ステークホルダーとなる時が来ている、と言うつもりはあるか」と質問されたのに対し、オバマ大統領は「そう言いたい。中国はたしかにただ乗りしている。過去30年間ただ乗りした」と述べた上、大国としての自覚と責任に関する持論を展開し、米国は他国のために行動することを期待されており、大国とはそういうものだと述べつつ、中国はそのようには見られていないし、行動もしていないなどと厳しく指摘した。
 戦争で落ち込んだイラクの産油量は急速に回復しつつあり、2014年4月には304万BDを超え、OPECではすでにサウジに次ぐ産油国になっている。中国は世界最大級の埋蔵量があるイラク南部の油田群、ルメイラ、西クルナ、ハルファヤとアブダブなどで石油メジャーやロシアとともに多額の投資を行ない、開発・生産に加わっている。イラクの最重要パートナーだとも言われている中国石油天然ガス集団公司(CNPC)は同時にパイプラインや輸出ターミナルの建設計画を進めており、インフラ関連を含め派遣中国労働者の数は1万人を超えると推定されている。他の中近東やアフリカ諸国へ送り込まれている労働者の数と比べこれはむしろ控え目な推定であり、リビアの政変では3万人が脱出した。
 米国はイラクにおいて莫大な犠牲をこうむった。戦死者だけでも約4千5百人に上った。しかし、イラク戦争に参加しなかったどころか批判的であった中国とロシアがイラクで権益を拡大し、ある意味で最大の受益者となっている。このような状況は米国から見ると、「ただ乗り」と見えるのであろう。オバマ大統領に限らずそれが米国民の気持ちであることはインタービューアーの質問からも窺える。
 しかし、中国にとっても事は簡単でない。香港の『鳳凰週刊』は8月9日、「ISIS、数年後に新疆ウイグルの占領を計画、中国を『復讐ランキング』首位に」と題した記事を掲載した(12日の新華社日本語版が転載)。ISISは言わずと知れた「イスラム国」であり、イラク政府はもちろん米国にとっても頭の痛い問題となっている。英国出身の戦士が米国人記者を処刑し、その模様をインターネットに流すというおぞましい行為が行なわれたのもイスラム国である。
 鳳凰テレビは日本ではフェニックス・テレビとして知られている。香港を拠点としているが、海外で中国の代弁をしっかりやっている。先日、中国機が米軍機に異常接近したことについて米国防省のスポークスマンが危険行為であったと指摘すると、同テレビの記者は逆に、米国は中国に対してスパイ行為をしているではないかと食って掛かったことがあった。前置きが長くなったが、『鳳凰週刊』はつぎのように記している。翻訳上の問題があるので一部修文した。

 「イスラム国の目標は、アフガンにイスラム国を実現させるというタリバンの目標よりもっと壮大で、カリフの伝統に戻ることを主張しており、数年後に西アジア、北アフリカ、スペイン、中央アジア、インドから中国・新疆ウイグル自治区までを占領する計画を立てている。
 イスラム国は、「中国、インド、パキスタン、ソマリア、アラビア半島、コーカサス、モロッコ、エジプト、イラク、インドネシア、アフガン、フィリピン、シーア派イラク、パキスタン、チュニジア、リビア、アルジェリアと、東洋でも西洋でもムスリムの権利が強制的に剥奪されている。中央アフリカとミャンマーの苦難は氷山の一角。われわれは復讐しなければならない!」と表明し、その筆頭に中国を挙げている。バグダッドでの声明では何度も中国と新疆ウイグル自治区に言及し、中国政府の新疆政策を非難した。中国のムスリムに対し、全世界のムスリムのように自分たちに忠誠を尽くすよう呼び掛けている。」

 中国が資源の確保を求めて進出している地域はイスラム圏が多い。イスラム諸国にとって中国は、かつては第三世界の利益を守ってくれる頼もしい存在であったが、今や矛盾することが目立つようになっている。イスラム過激派との関係は特殊であるが、矛盾の象徴でもある。
 一方、オバマ大統領の発言は、イスラム圏において中国は米国との関係でも矛盾を抱えていることを示している。中国はこのような状況でどのように対応するか。中国が多国籍軍に参加することは、いくら米国がイスラムの過激派と戦うのに強力な味方を必要としていると言っても当面はまずありえないが、将来起こりうるパワーバランスの変化としては頭の片隅に留めておくべきことと思われる。
 (本コラムはエナジー・ジオポリティクス代表の渋谷祐氏の許可の下、「ジオポリ」2014年8月号(第133号)をもとに作成したものである)。