メディア掲載  グローバルエコノミー  2014.09.05

日米貿易摩擦が再燃!来年の米不足で現実味

WEBRONZA に掲載(2014年8月22日付)

 「秋に米価は暴落する」(8月4日)で述べたように、農協が過去行った市場操作のせいで、今年産(26年産)米価は暴落する。

 では、農家は来年産の作付けをどうするのだろうか?今まで通り、米を作り続けるのだろうか?主食用の米価が暴落し、全農の過剰在庫は米流通量の1割にも及ぶ60万トンに増加しており、来年の米価回復は見込まれない。このような状況では、農家は主食用に米を作るようなことはしない。

 農家にはしかし、主食用以外にも米を作る道がある。しかも、これには、政権復帰した自民党政府によって多額の補助金が用意されている。

 前回の自民党政権末期の21年産から、政府は、農家にパン用などの米粉や家畜のエサ用などの非主食用に米を作付させ、これを減反(転作)と見なして、減反補助金を交付し始めた。具体的には、農家が米粉・エサ用の生産をした場合でも、主食用に米を販売した場合の10アール当たりの収入10.5万円と同じ収入を確保できるよう、10.5万円から米粉・エサ用米の販売収入を差し引いて、8万円を交付してきた。

 そればかりか、自民党は、政権復帰後行った減反見直しで、民主党が導入した戸別所得補償廃止によって浮いた財源を活用して、この補助金を10アール当たり最大10.5万円にまで増額した。この補助金は25年産の主食用米の農家販売収入と同額である。

 農家は米粉・エサ用の生産をすれば、25年産米価と同じ収入を補助金だけで得ることができる。米粉・エサ用のコメを売ることで何かしらの収入が得られれば、さらに有利となる。来年農家は、価格が低下した主食用の米ではなく、米粉・エサ用米の生産を行うようになる。

 農林水産省はエサ用に最大450万トンの需要があるとしている。その3分の1でも150万トンである。農家がこれだけの非主食用米を生産すれば、その分、主食用の米は不足する。過剰在庫60万トンはなくなり、かえって90万トンもの不足が生じる。当然米価は高騰し、所得の低い消費者の家計を圧迫する。

 このような事態を招くのは、自民党政府が増額した減反補助金のせいである。消費税増税による逆進性を緩和するため、軽減税率を検討している政府の責任が追及されるだろう。

 それだけではなく、このための財政負担は2,200億円。残りの減反面積への補助金を合わせると、減反補助金は今の約2倍の4,000億円に増加する。国民は、高い米価という消費者としての負担に加え、納税者としての負担も行うことになる。

 それだけではない。補助金漬けによる米粉やエサ用の米生産は、輸入小麦やトウモロコシを代替してしまい、これらのほとんどを輸出しているアメリカの利益を大きく損なう。しかも、価格の5%の補助金でも問題だとされるのに、米粉やエサ用の減反補助金は、主食用米価が低下しているので、その100%以上に相当する補助金となる。アメリカがWTOに減反補助金を提訴すれば、必ず勝つ。日本は負けるのだ。

 ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉の結果できあがったWTOは、前身のガットと異なり、異なる分野でも報復措置を講ずることを、加盟国に認めた。ガット時代なら、減反補助金でアメリカに悪影響を与えても、日本はアメリカに農産物を輸出していないのだから、報復を受けることはない。アメリカが日本に対して米の関税を上げても、日本は痛痒を感じない。

 しかし、WTOでは、農業補助金で影響を受けた場合、農業以外の工業製品の分野でも報復できる。これをクロス・リタリエイションという。アメリカは日本車に報復関税をかけるだろう。日米貿易摩擦の再燃である。