メディア掲載  グローバルエコノミー  2014.07.09

国民目線の農協改革(第3回・完)

「週刊農林」2014年7月5日号掲載

 この60年間、農協のあり方について、省庁は当然のこと、諮問機関も含め、政府の機関が文書を出したことは、一度もなかった。検討していることが伝えられるだけで、農協から大変な政治的圧力が加えられてきた。5月22日政府規制改革会議がまとめた農協改革案は、文書化されただけではなく、その内容も、驚くほど、大胆かつ画期的なものだった。 第一に、農協の政治活動の中心だった全中(全国農業協同組合中央会)に関する規定を農協法から削除する。全中は系統農協などから80億円の賦課金を徴収してきた。農協法の後ろ盾がなくなれば、全中は強制的に賦課金を徴収して政治活動を行うことはできなくなる。

 第二に、全農の株式会社化である。これは、協同組合ではなくすということである。日本の農業には、農協によって作られた高コスト体質がある。肥料・農薬、農業機械の価格は米国の2倍である。全農を中心とした農協は、肥料で8割、農薬、農業機械で6割のシェアをもつ巨大な企業体である。このように大きな企業体であるが、協同組合という理由で、全農には独占禁止法が適用されてこなかったし、一般の法人が25.5%なのに19%という安い法人税、固定資産税の免除など、様々な優遇措置が認められてきた。

 本来、農協は農家が安く資材を購入するために作った組織だったのだが、独占禁止法が適用されないことで、農家に高い資材価格を押し付け、最終的には高い食料品価格を消費者に押し付けてきた。様々な優遇措置がなくなることによって、全農が、一般の企業と同じ条件で競争するようになれば、資材価格や食料品価格が低下することが期待できる。

 これは、農協の意向を忖度せざるをえない自民党によって、完全に骨抜きされた。全中は新たな制度に移行するが、「農協系統組織での検討を踏まえ」るのだから、都合の悪い組織変更にはなりえない。全農の株式会社化も、単なる選択肢の一つとなったうえ、「独占禁止法が適用される場合の問題点を精査して問題がなければ」という条件も付けられた。しかも、この文章は、全農が判断するように読める。そうであれば、やらないと言っているのと同じである。全中が勝利宣言するのは、当然である。

 全中による農協の経営指導や監査が役に立っているのであれば、どうして農協職員による横領などの不祥事が絶えないのだろうか?なぜ全農を通じると資材価格が高くなるのだろうか?2007年に7千円ショックを引き起こした全農は、本当に農家のために行動しているのだろうか?株式会社化すればできなくなると農協が主張する共同販売・購入についても、全農が株式会社化されるだけで、依然として協同組合である単協には、独占禁止法は適用されない。しかも、生活資材の共同購入を行っているAコープは株式会社ではないのだろうか?

 農協組織ではなく、農協を管理・所有・利用している農家組合員による議論に期待したい。それが、国民のための農業組織につながるはずである。農協改革は始まったばかりである。(おわり)