メディア掲載  グローバルエコノミー  2014.06.27

農協改革

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2014年6月24日放送原稿)

1.農協改革が規制改革会議の答申に盛り込まれました。まず、農協について、説明してください。

 農協も生協と同じ協同組合です。本来、協同組合は、利用者である組合員が自主的に作る組織です。農家のような小さな事業者も、協同組合を作ることで、大きな会社に対して市場での交渉力を高め、資材を安く購入したり、製品を高く販売できるようになります。

 その原則は、「利用者が所有し、コントロールし、利益を受ける」というものです。株式会社の場合は、会社から製品やサービスを購入するのは株主ではなく、不特定多数の人です。所有者である株主は事業の利益の配分を受ける存在です。これに対して、協同組合では、組合の所有者、つまり組合に出資した組合員が製品やサービスを購入する利用者となります。組織の重要な事項について決定するのも、組合員である利用者です。

 ただし、農協には、生協と大きく異なる特徴があります。


2.それは、どのようなものでしょうか?

 設立の経緯から生じたものです。農協の前身として、戦前に産業組合というものがありました。これは当初は、豊かな農家や地主が自主的に作った組合で、主として、資金を融通し合う信用組合でした。しかし、東北では娘を身売りする農家も出たという1930年ころの昭和恐慌を乗り切るために、農林省によって、産業組合は、全町村に設置され、全農家を加入させ、農業資材の購入、農産物の販売、融資まで、農業・農村の全ての事業を行う組織に拡充されました。

 これが戦時中統制団体となった後、農協になりました。戦後の食糧難の時代、農家は高い値段がつくヤミ市場に、コメを流してしまいます。そうなると、貧しい人にもコメが届くように配給制度を運用している政府にコメが集まらなくなります。このため、政府は統制団体を農協に衣替えし、農協を使って、コメを政府へ集荷させようとしたのです。GHQは、戦時中の統制団体は完全に解体するとともに、農民が自主的に農協を作るべきだと考えていました。また、農林省にもそのような意見がありました。しかし、自主的に農協を作るという理想よりも、コメの集荷という差し迫った現実の問題処理を優先したのです。

 ヨーロッパやアメリカの農協は、酪農、青果等の作物ごととか、資材の購入とか、農産物の販売などの機能ごとに、自発的に作られた農協です。有名なサンキストは、カリフォルニアやアリゾナ州を中心としたオレンジ農家の販売農協です。これに対し、産業組合を引き継いだ農協は、農業から銀行・保険までさまざまな事業を行う組織となりました。また、戦時中の統制団体を引き継いだため、農業分野では独占的な事業組織となったほか、全国の農協連合会から、都道府県の農協連合会を通じて、末端の農協に指揮が降りるという、上からの下へのピラミッド型の組織となったと批判されています。これは組合員が組合をコントロールするという協同組合の原則とは、違います。


3.今回の規制改革会議の答申はどのようなものとなりましたか?

 当初の提案は、農協の反対や与党との調整により、かなり後退しました。

 まず、地域の農協が、自主的に地域農業の発展に取り組むことができるよう、各地の農協を上から指導している、全国や都道府県段階の農協中央会に関する農協法の規定をなくすよう求めていました。これは、本来の協同組合として、上からのコントロールをなくそうとする提案でした。しかし、「農協系統組織での検討を踏まえて、結論を得る」ことになりました。

 農協から集めた農産物を加工、販売する全国農業協同組合連合会(JA全農)については、当初、株式会社に転換するとしていました。全農は、肥料で8割、農薬、農業機械で6割の販売シェアをもつ巨大な企業体なのに、協同組合という理由で、独占禁止法が適用されてきませんでした。また、一般の法人が25.5%なのに19%という安い法人税、固定資産税の免除など、様々な優遇措置が認められてきました。こうした措置がなくなることによって、全農が、一般の企業と同じ条件で競争するようになれば、資材価格や食料品価格が低下することが期待されました。しかし、「独占禁止法の適用除外がなくなることによる問題の有無等を精査し、問題がない場合には」という条件つきで、「株式会社化を前向きに検討するよう促す」とされました。株式会社化を判断するのは全農となります。


4.これを、どのように評価しますか?

 農協は、民間組織である農協に国が関与するのはおかしいと反論しました。規制改革会議の答申が、農協改革を判断する主体を国ではなく農協としているのは、これを反映したものです。しかし、銀行は他の業務の兼業は禁止されていますし、生命保険会社は損害保険業務をできません。農産物販売から葬祭事業、銀行、生命保険、損害保険、全ての業務が可能な法人は、日本国内で農協しかありません。この広範で強大な特別の権限を認めているのは農協法です。農協法は、戦後の食糧難時代にコメを政府に集荷するために、農林省がGHQと交渉して作った法律で、農協が作ったものではありません。1947年に作られた農協法は、制定以来大きな修正は加えられませんでした。今の時代の農協法のあり方について、国民が議論するのは当然です。

 もちろん、60年以上も手をつけられなかった農協改革が簡単に実現できるはずがありません。10年くらいかかるような難題です。今回規制改革会議で問題提起がなされたこと自体、素晴らしいことだと思います。農協改革は始まったばかりです。