コラム 外交・安全保障 2014.06.10
バルカン半島では去る5月中旬、数日間降り続いた豪雨により大洪水が発生し、セルビアとボスニア・ヘルツェゴビナがもっとも大きな被害をこうむった。セルビアの西北から東南へ向かってドナウ川が流れ、ベオグラードで西から流れてくるサバ川と合流する。洪水はこのサバ川を中心に発生し、オブレノヴァッツ市(首都ベオグラードの西方50キロくらい)などはほぼ全域が水没した。この一帯ではほとんどすべての町で道路その他のインフラ破壊などの二次被害が起こっている。
大規模な災害の程度を正確に表現するのは困難であるが、5月20日ごろの時点で避難を余儀なくされた人の数は3万人と推定され、約30万世帯が電気を使えなくなったそうである。
セルビアの大統領は「歴史上最大の被害」であったと述べている。被害総額は15~20億ユーロで、これは同国のGDPの約7%にあたり、さらに増加する見込みであると言われている。
しかしながら、この災害の状況は広く伝えられていない。日本でこのことを知っている人は今日(6月7日)の時点でもおそらくごくわずかであろう。日本だけでない。この災害についての報道は各国とも少なく、有名なセルビア人テニス・プレーヤーのジョコビッチが報道の少ないことを嘆いている。
報道が少ないのには理由がある。一つには、セルビアにとって歴史的な大災害であっても各国のメディアの基準では直ちに大きく報道するようなことでないからである。また、日本から見た場合バルカンは非常に遠い国であるという要因が加わる。地理的距離は南米などより近いが、心理的には非常に遠く、それだけ関心が薄いのである。
さらにセルビアにとって不幸なことに、5月中旬から6月にかけ、ウクライナ問題、中国艦艇の南シナ海での問題、さらにはアジア安保会議(シャングリラ対話)、G7、ノルマンディー上陸70周年記念など世界的な事件や行事が相次ぎ、メディアの関心がどうしてもそちらに向かいがちであった。
ともかく、この際セルビアやボスニア・ヘルツェゴビナなどでひどい災害が起こったことに注目していただくのは重要なことと思う。バルカンとそれ以外の地ではお互いに抱く関心の度合いが非常に不均衡である。心理的に日本から遠いと言ったが、セルビアには日本の武道や俳句を愛好する人たちが大勢おり、セルビア人は日本のことに強い関心を抱いている。このようなことも日本ではあまり知られていない。
東日本大震災に際して、セルビア政府は5千万ディナール(約4.5千万)の義捐金をセルビア赤十字経由で日本に提供し、これに民間からの義捐金を合わせるとセルビアからの義捐金は2億円近くに上った。誇り高いセルビア人は見返りを期待して行なったことでないが、我々日本人として忘れてはならないことではないか。
在京のセルビア大使館が開設しているホームページや、民間のサイトがセルビアに対する支援をよびかけている。アクセスしていただければ幸いである。
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