メディア掲載  グローバルエコノミー  2014.05.30

規制改革会議の農業改革提案

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2014年5月27日放送原稿)

1.規制改革会議が5月22日、農業改革の提案をまとめました。どのような内容でしょうか?

 農業委員会、農業生産法人、農協についての提案です。

 農地の売買や転用に関する権限を持つ農業委員会については、今は農家の互選で委員を選んでいますが、委員を市町村長の任命で選ぶようにし、農業者以外の人が参加しやすいようにします。

 企業が農業に参入しやすくするよう、農業生産法人への出資比率について、農産物の加工や流通を行う企業などに限って25%まで出資を認めるという現在の規制を、企業の種類を限定しないで50%まで出資できるよう引き上げます。

 農協については、大きなものとして、3つあります。まず、各地の農協を指導する権限が認められている、全国や都道府県段階の農業協同組合中央会に関する農協法の規定をなくすよう求めています。これは中央会が上から指導するのではなく、地域の農協が、自主的に地域農業の発展に取り組むことができるようにするためです。

 農協から集めた農産物を加工、販売する全国農業協同組合連合会(JA全農)については、グローバル市場における競争に参加するため、株式会社に転換するとしています。最後に、農協は、銀行業務や保険業務も行っていますが、これを全国団体に移管し、地域農協は窓口・代理業を実施して報酬を得るとしています。これは、地域農協が農産物販売等の事業に全力投球できるようにするためだとしています。


2.どのように評価できますか?

 農業委員会については、これまで選挙権も被選挙権も農家だという制度でした。このため、農地を宅地などに転用したいという農家が出てきたとき、はっきりノーと言えないなど、農地制度の運用が地域の農家のなれあいで決められているという批判が行われてきました。農地資源の確保は食料安全保障の基本です。今回委員の任命を市町村長の選任とするとしたほか、遊休農地や農地の違反転用について、農業委員会の関与を強めたことは評価できます。

 農業生産法人については、農地法は企業の農地取得を認めてきませんでした。これは小作人に所有権を与えて自作農を作った戦後の農地改革の成果を維持しようとしたためです。つまり、農地について所有権などの権利を持つ者が耕作者であるべきだという主張です。株式会社の場合は、農地についての権利を持つ者は株主、耕作者は従業員となりますから、農地法の思想にあわなかったのです。したがって、ほとんどが農業者の出資で農業者以外の出資比率を25%未満に限定するなど、農家が法人となったような場合しか、農地についての権利の取得を認めてきませんでした。

 しかし、2009年の農地法の改正で、企業が農地を借りて農業に参入するときは、このような制限なく参入することができるようになりました。農地の賃借権を持つのは株主で、耕作するのは従業員ですから、農地の権利者と耕作者が同じであるべきだという農地法の思想は、既に放棄されていると言っても良いと思います。賃借権だけではなく、所有権の取得についても、法律の建前からは、自由に認めざるを得ないと考えられます。

 ただし、一気にそこまで認めることは難しいと思います。今回農業者以外の出資比率を25%から50%に引き上げようと提案していることは、前進だと思います。しかし、企業ではなく、資金のない個人が資金を調達するため、ベンチャー株式会社を作って、参入しようとしても、他の人に出資してもらえるのは50%までなので、半分は自己資金で賄わなければなりません。資本金が少ないベンチャー株式会社については、農業者以外の出資比率についての制限をなくすべきだと思います。


3.農協については、どうでしょうか?

 本来農協は農家が作りコントロールするという下からの運動組織なのですが、中央会という組織によって上からコントロールされているという批判がなされてきました。中央会の位置づけが再検討されることは、評価できます。

 また、全農の株式会社化で、全農は協同組合ではなくなります。全農を中心とした農協は、肥料で8割、農薬、農業機械で6割の販売シェア、コメについて5割のシェアをもつ巨大な企業体です。このように大きな企業体であるのに、協同組合という理由で、全農には独占禁止法が適用されてきませんでしたし、一般の法人が25.5%なのに 19 %という安い法人税、組合員への配当の非課税、固定資産税の免除など、様々な優遇措置が認められてきました。

 本来、農協は農家が安く資材を購入するために作った組織でした。しかし、農協に独占禁止法が適用されないことで、農家が全農を通じて肥料などの農業資材を購入すると高くつくという批判がなされてきました。ある農協が全農以外から肥料を購入したら3割安くなったという話もあります。高い資材価格は農家にとって不利益となるだけではなく、最終的には高い食料品価格となって消費者の負担を増やしてしまいます。様々な優遇措置がなくなることによって、全農が、一般の企業と同じ条件で競争するようになれば、資材価格や食料品価格が低下することが期待できます。


4.今後のスケジュールはどうですか

 政府・与党で検討して、6月に最終的に決定されることになっています。この内容がそのまま実現できるとは思いませんが、これまでタブーとされてきた農協改革について政府の機関が初めて提案文書を出した意義は大きいと思います。