コラム  外交・安全保障  2014.05.08

オバマ大統領の尖閣諸島に関する発言

 オバマ大統領は4月23日から25日までの訪日中、尖閣諸島についてどのような態度表明を行なうか注目されていたところ、24日の安倍総理との会談後の共同記者会見で、「日米安保条約第5条は尖閣諸島を含め、日本の施政下にあるすべての領域に適用される」と明言した。これは米国の高官がこれまで何回か表明してきたことであったが、大統領として明言した意義は大きい。

 しかし、日本としてこのオバマ大統領の発言で一安心できるかといえば、決してそうではなく、むしろこれからが大変である。オバマ大統領は、尖閣諸島に関する中国との紛争を解決するよう安倍総理に積極的な対応を促していたからである。それも非常に強い言葉で促していた。また、「尖閣諸島の最終的な主権の帰属について米国としての見解を表明するのでない」とも述べていた。オバマ大統領の発言は全体を見なければ真意を理解できない。

 残念ながら大統領の一部発言は、通訳に頼り過ぎたためか、正確に報道されなかった。オバマ大統領が安倍総理に対して対応を促した発言は、「私は安倍総理に直接言ったのだが、日中間で対話や信頼関係を築くことをせずに、事態がエスカレートするのを見続けることは重大な誤りである」であった。「重大な誤り」の原語はa profound mistakeであったが、「正しくない」とか、「非常に好ましくない誤り」(官邸ホームページの録音)とか訳されており、オバマ大統領の発言の強さを正しく伝えた新聞は皆無ではなかったか(ただし全国紙)。

 この言葉は、文法的には仮定形で表現された文章の中の一句であり、この言葉を以てオバマ大統領が安倍総理をストレートに批判したとは言えないが、批判すれすれの表現であったことは間違いない。外交的には、敵対している関係ならともかく、同盟国間ではまず使われない重い言葉であり、米国は日本の立場を理解・支持しつつも、日本が尖閣諸島に関して中国と対話する必要はないと突っぱねていることに不満であることを示していた。

 日本国民はこのことを知る必要がある。

 今後日本としてどうすべきか。日本が尖閣諸島の領有権を持つことは法的、歴史的に明らかであり、したがって領土問題はないという姿勢を貫くべきことは当然であろう。しかし、中国と対話しない、何もしないというのは、第三国に理解されない。

 日本は中国との間で生じている争いを平和的に収める努力をしなければならず、そのためには国際司法裁判所での解決を求めるのがよい。日本は、国際司法裁判所での解決についてすでにある程度発言しているが、法的な可能性として中国が提訴するなら受けてもよい、と述べているだけである。日本は、国際司法裁判所での解決を求めており、そのために努めていると歯切れよく表明することが肝要である。そして、米国はじめ関心を持つ諸国に対してこの方針を説明し、中国の説得にも協力を求めるのがよいと考える。

 オバマ大統領は日本の対応を強く促した後、平和的解決のためには何でも協力すると言っている。米国は一般的に国際司法裁判所での解決を重視しており、あるとき中国の高官が不用意にハワイの法的地位を問題視するような発言をした際、ヒラリー・クリントン国務長官は「やれるものならやってみればよい。国際仲裁で決着をつけよう」と反撃したことがある。国際仲裁と国際司法裁判は厳密には異なる手続きであるが、国際的な場で公平な解決を求めるという意味では同じである。

 米国は第三国間の領土紛争に介入しないという基本方針については、米国は従来から一貫してそのことを主張しており、今回のオバマ大統領の発言は新しいものではない。

 しかし、尖閣諸島に関する限り米国は特殊な立場にあり、通常の意味での第三国でない。尖閣諸島がサンフランシスコ平和条約の「琉球諸島」に含まれることを確立したのは、日本でなく米国と同条約の他の締約国であり、その際主導的役割を果たしたのは米国であった。これは1953年のことであるが、現在もその状態が継続している(「尖閣諸島の法的地位」参照)。このことを米国にリマインドし、米国がそのような立場にふさわしい態度を取るよう求めていくべきである。