メディア掲載  グローバルエコノミー  2014.04.18

農協による「農協の地域組合への衣替え」案の意味

WEBRONZA に掲載(2014年4月4日付)

 全国農業協同組合中央会(全中)は3日、JA改革案を発表したが、これに先立ち朝日新聞は3月29日付の朝刊で、農協が、農協の位置づけを「農家の組合」から「地域の組合」へ衣替えを検討していること、これに対して農林水産省は農協の本質を変えるとして慎重だと報じている。

 農協は農業の職能組合である。しかし、戦後農協法を立法する際、農家でなくても、地域の住民であれば、農協の意思決定には参加できないが、農協の事業を自由に利用できるという准組合員制度を認めてしまった。

 そもそもは、地域住民のために例外的なものとして認めた制度だった。ところが、住宅ローンや保険サービスを提供することで、この准組合員から利益をあげられると判断した農協の積極的な勧誘によって、その数はどんどん増加した。

 現在では517万人となり、農家である正組合員467万人を大きく上回っている。他のいかなる法人にも認められていない、銀行事業の兼務、生命保険と損害保険業務の兼務と、他の協同組合にはない准組合員制度は、相乗的に作用し、農協は脱農化で発展した。

 農業は衰退するのに、農協は我が国第二位のメガバンクになるなど、大きく発展した。しかし、これによって、農協は農業や農家の協同組合ではないという批判が高まってきた。

 「地域の組合」へ衣替えは、このような批判をかわそうとするものである。しかも、農家戸数は253万戸なのに、農協正組合員467万人(正組合戸数は401万戸)はこれを大きく上回る。農業を止めた人たちも、正組合員のままにしているからである。「地域の組合」にすれば、地域の住民であれば、誰でも正組合員になれるので、准組合員だけでなく今の幽霊正組合員も、堂々と正組合員とすることができる。

 農協の提案は、今の脱農化という実態を法的に追認させようとするものである。農協が農業の構造改革を阻害したり、独占的な地位を利用して高い資材価格を農家に強要したり、農協を通じて販売しない農家には融資をしないなどの圧迫を加えるなどの行為に、自らメスを入れようとするものではない。農協による「農協の既得権維持」の提案にほかならない。

 もし、農協を地域協同組合にしようとするのであれば、今のJA農協を信用(銀行)、共済(保険)、生活物資の供給事業を行う地域協同組合とし、農業事業は行わせないようにすべきである。農業の事業は農家が自発的に作る協同組合が行えばよい。JA農協の分割を行うのである。

 つまり、農業協同組合法と地域協同組合法の2法を制定し、JA農業部門は、解散するか、新たに農家が自主的に作る農協に移管すればよい。JA農協は信用、共済事業を兼務できるという世界でも異常な協同組合だった。しかも、これは昭和の農業恐慌と戦後の食糧難に対処するため、政府(農林省)が作った官製の協同組合だった。これによって、農家が自主的に作る農家のための協同組合が日本に出来上がることになる。

 農林水産省がこれに消極的な理由は、地域協同組合法の所管は総務省となってしまい、天下り先がなくなってしまうからである。かつて、農林水産省の役人は農協には天下りしないという不文律があった。しかし、天下りへの批判や規制が高まったことから、独立行政法人などへの天下りが難しくなってしまった。

 このため、農協の信用事業部門の全国団体である農林中金や共済事業の全国団体である全共連などの関連団体に、大量に天下りするようになった。農林水産省が農協の信用事業や共済事業の所管を失うことになれば、農林水産省の役人はこれらの団体に天下りできなくなる。

 農業のための真の農協改革が、農協や農林水産省によって行われることは期待できない。