前回に引き続き米国西海岸出張の話をしよう。ロサンゼルスで思わぬ人物に会えた。ミッキー・カンター。クリントン政権時代の米通商代表だ。1995年自動車をめぐる日米貿易摩擦で当時の橋本龍太郎通産相と丁々発止の交渉を行った人物である。この橋本元首相、実は筆者の遠戚にあたる。外務省には厳しい人だったが、筆者個人にはなぜか優しかった。当然カンター氏とは橋本氏の思い出話に花が咲いた。それにしても、当時日米貿易戦争があったなんて信じられない。今や米国の貿易摩擦相手は中国だが、ロサンゼルスでも中国系移民が急増し、郊外に幾つもチャイナタウンができた。たった20年で時代は大きく変わってしまったようだ。
別れ際にカンター氏が一言つぶやいた。日本経済再生のカギは移民と女性だ、と。筆者は反論した。英仏独など欧州の例を見ても、移民問題は米国ほど単純ではないし、日本でも近年女性管理職の数は増えている。いや、それは違うとカンター氏。過去20年間東京に通い続けているが、日本企業経営陣との会合で女性を見たことは一度もないという。苦し紛れに筆者が再反論すると、同じく儒教の伝統が強い韓国ですら大統領は女性だし、韓国企業の経営陣には必ず1人女性がいる、と切り返された。なるほど、彼の言う通りなのかもしれない。
帰国後もカンター氏の言葉が脳裏から離れない。早速調べてみると、主要国の女性管理職の比率は米国が40%を超え第1位。30%台後半の仏、英、伊、独などが続く。対する日本・韓国の女性管理職比率はわずか10%程度、これでは比較にすらならない。
人口が減少する日本で女性の労働参加率を高めれば国内総生産が増えることはもう分かっている。だからこそ日本政府は10年以上も前から、2020年までに女性管理職を30%以上とする目標を掲げているのだろう。安倍晋三政権もその成長戦略の中で女性登用拡大を目玉の一つにうたっている。それにもかかわらず、日本の女性役員比率は1%以下、これに対し欧米平均は10%を優に超える。なぜ日本には女性管理職が少ないのだろう。
その理由を日本で聞くと、答えは「管理職に必要な知識、経験、判断力を持つ女性が少ない」「女性が働くための社会・企業内のインフラが不十分」だからという。しかし、男女で答えが微妙に異なる部分もある。例えば男性は「女性の意欲不足」を挙げるのに対し、女性は「男性上司・同僚・夫の無理解と怠慢が原因」と指摘するそうだ。
筆者個人の情けない経験を話そう。女性管理職比率世界1の米国も1970年代までは女性差別など日常茶飯事だった。だから当時は黒人解放を目指した公民権運動だけでなく、女性解放を目指すウーマンリブ運動も活発だったのだ。80年代に入り、米国でもようやく女性管理職が目立ち始めた。女性たちにとっては「結婚・子育て・職業」の3つのバランスをいかに保つかが最大の悩みだった。この点は今の日本と変わらない。
日米の違いは女性の能力や意識の不足ではない。真の違いは女性管理職の養成を男性が支援するか否かだ。筆者の米国の友人たちの人生も千差万別だ。家庭で子育てしたい女性もいれば、管理職を目指すキャリアウーマンもいた。全ての夫婦に共通するのは妻の夢実現を夫は支援するという大原則だった。
これに比べれば、筆者など妻の出産にも立ち会わず、子供の教育も任せっぱなしの駄目オヤジだ。自分の妻も支援できない男が管理職を目指す女性の部下・同僚を支援できるはずがない。女性管理職養成は女性のためだけでなく、国全体のためである。女性管理職の増加が日本経済を再生させるならまず男性側が彼女たちの支援を始めるべきだ。