先々週、駆け足で米国中西部から西海岸を回ってきた。考えてみたら、ワシントン以外の地方都市を訪れるのは実に久しぶりだ。今回は改めて、真のアメリカが首都ワシントンの外縁から始まることを痛感させられた。
まず訪れたのはシカゴ。大寒波来襲で外気はマイナス10度前後。あの巨大なミシガン湖すら凍っていた。寒さのせいなのか、20年ぶりで訪れたシカゴの地場産業は何となく活気がなかった。シカゴに限らず中西部の有識者が関心を持つ国際関係は外国との経済関係であるらしい。日本や中国との貿易・投資額の増減にはやたらと敏感だが、尖閣問題をめぐる日中関係の悪化など東アジア情勢についてはほとんど関心がない。これが中西部経済の現実なのだろう。
それでも、中西部にある主要大学では中国語を教える孔子学院が増殖中だという。やはりそうかとは思ったが、少しうれしい話も聞いた。強力な中国ソフトパワー攻勢にもかかわらず、主要大学における日本語学習者の数は減っていないというのだ。
だが、喜んでばかりもいられない。さらに詳しく聞いてみると、これら日本語学習者の4割前後が中国人、韓国人留学生だという。この事実をどう解釈すべきなのか。中韓留学生にとって日本語は単位を取りやすい語学なのかもしれない。他方、中韓留学生の全てが日本語を学ぶわけでもない。現に、ある中国人留学生は日本語を学ぶことを本国の両親に反対されたという。それでも彼が日本語を選んだ理由は、日本文化、特にアニメが大好きだかららしい。この点は米国人学生もほぼ同じだそうだ。
まあ、見方を変えれば悪くない話かもしれない。長い目で見れば、中韓の優秀な留学生が日本語を学ぶことは日本を客観的に知る中国人、韓国人が増える可能性があるのだから、むしろ歓迎すべきなのだろうか。
シカゴからサンフランシスコ経由でロサンゼルスに飛んだ。サンフランシスコと周辺のベイエリア地域経済は、近くにシリコンバレーがあることもあり、相変わらず元気に見えた。同地域には中国系移民も増えているようだが、アジア系コミュニティーの間で深刻な問題が生じているようには見えなかった。
これに対し、日本にとってより深刻なのはロサンゼルス地域かもしれない。象徴的な事案が例の慰安婦像のあるロス近郊のグレンデール市だ。人口約20万人、以前は静かな町だったが、過去数十年間でアルメニア系の人口が急増したそうだ。さらに近年は韓国系米国人が激増し、今や同市全人口の5%、約1万人に達しているという。5%といえば同市内の選挙の行方を左右する数字だ。
アルメニア系米国人といえばトルコによるアルメニア人虐殺問題を執拗に取り上げることで有名だ。人口の4分の1を占めるこれら新参者が同市の政治の流れを変えつつある。米国市民となったのに、母国と第三国の政治問題を取り上げるとは、いかがなものか。古くからの住人には苦々しく思う向きも多い。韓国系住民の市議会関係者に対する働きかけも尋常ではないそうだ。しかし、米国は民主主義の国、いかんともし難い。
今回の米国出張で得られた教訓は2つ。第1は、ワシントン以外の米国地方都市では国際政治問題に対する関心が低い。やはり地道に個々の地方、都市との貿易・投資を拡大することが最も効果的なのだろう。
第2は、米国の西海岸地域の重要性だ。同地域は太平洋を向いており、米国東部や中西部に比べ、アジアとの親和性が高い。人権問題に敏感なあの有名なサイモン・ウィーゼンタール・センターもロス市内にある。ワシントンも大切だが、対米広報の第2の主戦場は西海岸にあるのかもしれない。