メディア掲載  グローバルエコノミー  2013.11.29

減反見直しが抱える問題

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2013年11月26日放送原稿)

1.減反が見直されていますが、どのような内容でしょうか?

 一部の報道では減反の廃止と言われていますが、それは間違っています。農水省も自民党も減反廃止を否定しています。

 1970年から実施されてきた減反政策の基本は、農家が水田でコメを作らないで他の作物を植えるという転作、コメ生産の側から見るとコメの生産が減少するので減反になりますが、それをすれば、減反面積に対していくらという補助金を交付するというものです。これに加えて、2010年から民主党は、これ以上コメを作らないという生産目標数量を守った農家に対して、コメを作付した面積に対していくらという補助金、戸別所得補償を支払うことにしました。今回の見直しは、後者の部分の、コメの生産目標数量と戸別所得補償を廃止するというものです。戸別所得補償が減反交付金とか減反補助金とかという名前で報道されていますが、これは2010年から始まったもので、しかもコメの作付面積に対するもので、減反の補助金と呼ぶのは適当ではありません。

 実は、2007年に自民党政府はコメの生産目標数量をいったん廃止しました。そのとき戸別所得補償はなかったわけですから、今回の見直しは2007年の姿に戻すだけです。しかも、1970年から続いている本来の減反面積に対する補助金は、戸別所得補償を廃止したお金を使って、さらに拡充されます。つまり、農家に補助金を与えることでコメの生産、供給を減らして、コメの価格を高くして、農家の所得を維持するという、長年続いている農政の根本的な政策に、いささかの変更もないのです。


2.減反政策はどのように見直しされるのでしょうか?

 コメ農家にとって、最も作りやすい作物はコメです。前回の自民党政権末期の2009年から、作りにくい麦や大豆に代えて、米粉やエサ用などの非主食用にコメを作付させ、これを減反(転作)と見なして、減反補助金を交付してきました。今回、自民党・農水省はこの補助金を増額しようとしています。

 おおまかに説明しますと、本来8,000円の主食用米価を減反で14,000円に引き上げたうえで、その主食用価格14,000円と3,000円の米粉用の米や2,000円のエサ用の米との大幅な価格差を減反補助金という税金で補てんします。こうして、安いエサ米などを作っても高い主食用のコメを作ったと同じ農家手取りが確保できるようにしています。それでもエサ用の需要先が少ないので、今回補助金をさらに増額して、エサ用の米価をさらに引き下げて需要・生産を増やそうとしています。ちなみに、世界的にみると、エサとして使われることの多いトウモロコシや小麦などの他の穀物と違い、コメがエサとして使われることはあまりありません。


3.どのような問題があるのでしょうか?

 食管制度があった時代、政府は抱えた過剰米在庫を、3兆円の税金を投入して、エサ用などに処分しました。今回の対策は、エサ用などへの減反という形で事前に過剰米処理を行おうとしているものだと言えます。

 まず、財政負担、税金の投入の問題です。農家が米粉・エサ用の生産をした場合でも、主食用に販売した場合の10アール当たりの収入10.5万円と同じ収入を確保できるよう、8万円を交付しています。現在米粉・エサ用のコメ作付面積は6.8万ヘクタールで、減反面積100万ヘクタールの1割にもなりませんが、補助単価が大きいので、トータル2,500億円の減反補助金のうち544億円がこれだけに支払われています。

 農水省はエサ用に最大450万トンの需要があるとしています。面積で65万ヘクタールです。もし自民党が10アール当たり補助金単価を10.5万円に増やすと、これだけで7,000億円かかります。残りの減反面積を合わせると、減反補助金は8,000億円にも達します。減反補助金については、5,500億円もの税金投入の増加となります。エサ用のコメ生産が増えると、戸別所得補償廃止によって浮いた財源を上回るおそれがあります。

 これまで減反補助金と戸別所得補償を合わせて5,000億円ほどの税金を使って米価を上げ、消費者に6,000億円もの負担をさせてきました。今回の見直しで、補助金が効きすぎて、エサ用のコメの収益の方がよくなれば、主食用のコメの作付けが減少し、主食用の米価がさらに上がってしまうかもしれません。そうなると、税金投入の増加とあわせて、国民負担はさらに高まります。消費税を上げるときには、貧しい人の食料品価格が上がるという逆進性の問題が指摘され、食料品の税率を低くするという軽減税率が検討されているのに、主食であるコメの価格については、取り上げる政治家の人がほとんどいないのは奇妙なことです。

 次に、新たな貿易摩擦を生むということです。日本は、家畜のエサとして1,100万トンのトウモロコシを輸入していますが、そのうち異常な年を除いて、アメリカからの輸入は1,000万トン近くあります。過去の過剰米処理の時には、エサ用にコメを処分したのは、最大で1971年の147万トン、7年間のトータルは511万トンです。過去の過剰米処理は一過性でしたが、今回は毎年エサ米を生産するのですから、アメリカからのトウモロコシ輸入は大きく減少します。米粉が増産されれば、小麦の輸入が減少します。アメリカがWTOに提訴すれば、アメリカは報復措置として、日本から輸入される自動車に高い関税をかけることも可能になります。そうなると日本経済に大きな影響が生じます。

 国民は、納税者として、消費者として、また他の産業の従事者として、もっと農業問題に目をむけるべきだと思います。


(13年12月26日一部修正)