ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2013.11.12
財政政策がマクロ経済にどのような効果をもたらすのか、景気後退に対して財政政策運営を行う時に、減税を行うべきか、財政出動を行うべきか、またその際の資金繰りのために赤字国債を発行すべきか増税で対処すべきか、などの問題は非常に古典的ではあるが、現在の日本においても非常に重要なトピックである。2007年末からの金融危機や東日本大震災によって日本経済は低迷が続いている。安倍政権も現状打開のための経済政策いわゆるアベノミクスの3本柱のひとつに財政政策を置いている。
本稿では、符号制約を用いた構造VARモデルを日本のマクロ経済データを適用して、税収増加政策および財政支出増加政策のマクロ経済への影響を調べた。構造VARを用いた既存研究では、「景気がよくなると自動安定化装置を通じて、自然と税収が増加する」効果と財政政策による税収増加の効果を区別することが難しいことが知られているが、本稿で用いた符号制約によって景気循環に伴う税収の変化を政策変化による税収増加と区別することができる点が分析ツールとしての利点である。
分析の結果、財政支出増加は消費・賃金には短期的にプラスの影響があるものの中長期的な影響はほとんどなく、GDPに対しては短期的にも中長期的にも有意な結果が得られなかった。これと対照的に、税収増加(つまり増税)は短期的にはGDP・消費・投資・賃金などに対して負の影響をもたらすが、中長期的にはマクロ経済に対してプラスの効果をもたらすことが明らかになった。この税収増加の中長期的な効果は、いわゆる非ケインズ効果として解釈することが可能と考えられる。つまり、政府債務のGDP比を改善することによって、消費者および企業が将来に対して楽観的になり、消費および投資を行える環境になるため経済によい影響をもたらしているのではないかと推測できる。したがって、日本の中長期的な経済成長のためには税収を増加させて財政健全化を図ることが必要なことが示唆された。また、赤字国債を発行しての財政支出増加、赤字公債を発行しての減税、均衡財政下での財政支出増加(増税+財政支出増加)の3シナリオを検討した結果、均衡財政下での財政支出増加(増税+財政出動)が消費にもGDPにも中長期的に最も効果が高く望ましい政策であることも分かった。
Dynamic Effects of Fiscal Policy in Japan:Evidence from a Structural VAR with Sign Restrictions(英語) (PDF:419KB)