メディア掲載  グローバルエコノミー  2013.11.12

減反見直し協議開始-廃止の結論は遠く 新たなバラマキ策も

エコノミスト2013年11月12日号に掲載

 自民党の農林関係の合同会議で10月25日、減反と一律補助金(戸別所得補償)の見直し協議がスタートした。政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)が、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)問題も絡め、小規模農家を支える減反の廃止などで農業経営の大規模化を促し、国際競争力の強化を図ろうと農政の抜本的な見直し議論を始めたためだ。だが、自民党側は減反廃止に踏み切る構えはないようだ。

 減反政策は1970年に始まった。食糧管理制度による高米価政策によって、生産が増え消費が減り、コメが過剰になったからだ。当初減反は米価維持が目的ではなく、生産を減らして政府の買入れを減らし、財政負担を減少させることが狙いだった。

 これに対し、無制限政府買い入れを主張する農協は減反に反対した。農協をなだめるために、政府が導入したのが、減反する水田面積に応じた補助金である。この補助金は、余った水田に麦や大豆などの作物を植え、食料自給率を向上させるという名目で交付されるアメである。しかし、コメ農家のほとんどは兼業農家で、麦など他の作物を新たに作る技術はない。補助金を受け取るために、作付けはしても収穫はしないという"捨て作り"という状態も出てきた。


 農協は維持求め

 アメに加えて、減反に協力しない地域や農家には、翌年の減反面積の加重や機械などを対象にした補助金を交付しないなどのムチも用意された。高米価による政府買入れで農家の所得を保障しようとした食管制度が95年に廃止された後は、減反が米価維持の唯一の手段となった。減反に反対した農協は、今では維持を求めている。

 民主党政権はムチをやめ、減反に参加した農家に10アール当たり1万5000円を補助する戸別所得補償を導入した。つまり農家には減反補助金と戸別所得補償の二つのアメが用意された。北風と太陽の寓話のように、アメはムチよりも減反達成によく効いた。減反に参加しなかった農家も参加するようになったからである。

 この戸別所得補償を自民党は「バラマキだ」と批判している。そこで始まった自民党の見直し議論だが、目指しているのは減反参加を条件とした戸別所得補償の段階的な廃止であって、減反補助金は維持する構えだ。つまり、減反の抜本的な廃止ではない。


無駄な補助金増額も

 戸別所得補償を廃止する一方、新たなバラマキ策として、減反に参加しない農家にも水資源の涵養や洪水防止など農業の多面的機能に着目した別の直接支払いを導入しようとしている。しかも、前自民党政権末期から「水田フル活用」と称し、作りにくい麦や大豆に代えて米粉や飼料用などのコメを作付けさせ、これを減反(転作)と見なして交付してきた減反補助金を増額しようとしている。

 今でも、60キロ当たり8000円で生産される主食用の米価は、減反によって1万5000円程度に引き上げられている。そのうえ、加工用9000円、米粉用3000円、飼料用1500円との価格差は、減反補助金で補填される。補助金を使って主食用の米価を上げながら、同時に他の用途の米価を下げていることになる。自民党はこの無駄の多い政策をより拡充しようとしている。

 向こう3年間国勢選挙はない。安倍政権は思い切った政策を展開できる。TPP締結に向けても減反は廃止すべきだ。しかし、多くの政治家にとっては、3年後の選挙以降も政治家を続けられるかどうかが重要である。農協票が対立候補に流れることは自民党候補にとって悪夢である。郵政改革に対する小泉純一郎元首相のような決意がなければ、戦後農政のコアである減反は廃止できない。