コラム 外交・安全保障 2013.10.30
11月に開催予定の三中全会では次の6つの経済問題が焦点になると、海外に拠点がある『大纪元』紙(2013年10月11日付)が論評している。法輪功グループにより刊行されている新聞であるが、問題を大づかみに取り上げており参考になる。この他、中国政府系シンクタンク、中国経済体制改革研究会の副秘書長の袁緒程(経済学者)などは行政改革も挙げているが、両者が指摘していることは全体としてそれほど違わない。
項目名と説明は『大纪元』のとおりであり、カッコ内は筆者が加えた補足説明である。
構造問題
中国経済は投資に依存しており、地方政府はGDPを上げるために投資と借り入れを増加してきたが、経済水準が上昇し通貨の流通量が増大し、物価が上昇するに伴い中央政府は緊縮策を余儀なくされている。その結果、地方政府の財政収入は減少し、債務負担が重荷になるので投資を再度喚起しなければならない。中国経済は大幅な上昇と下降を繰り返すことになる。
(中国経済の成長が資本と労働の投下に強く依存していることは常識といってよいであろう。通貨供給量の増大は事実であり、M2(現金通貨+預金)の対名目GDP比は1990年代半ばに100%を超えた後ほぼ一貫して上昇し、2013年には200%に達する可能性があると見られている。)
マクロ・コントロール
大都市の例では、この10年来43の住宅用不動産についてマクロ・コントロールを行なってきた。しかし、この10年に価格は10倍に上昇した。
(「宏観調控」と呼ばれる中国のマクロ・コントロールは経済外的な方法を交えるなど特異な面がある。市場メカニズムによる自動調節機能が不十分なためであり、中国経済が過熱し混乱気味になると、中国政府は、投資プロジェクトの整理・縮小、銀行の信用貸付に対する締め付け、土地収用に対する管理の強化、地方政府が絡んだ工業団地への転用に歯止めなどしてコントロールに努めている。)
金融改革
金融改革が進まず、経済が危機的な状況に陥ったことを背景に、元来三中全会で準備を始める予定であった上海自由貿易区を繰り上げて9月29日に発足させた。李克强首相の肝いりであるこの経済改革は一つの試験であるが、既得権益グループから抵抗を受けている。
(銀行が本来の機能を発揮せず、いわゆるシャドー・バンキングの現象が現れ、増大していることは周知である。中国の銀行の不良債権は公式統計では5400億元にすぎないが、この数字は銀行が抱えるシャドー・バンキング関連の債権を除外しているので人為的に低く抑えられている。実際には残高は21兆元、GDPの40%という巨大な数字であるという見方もある。なお、シャドー・バンキングの債権がすべて不良債権化するのではない。
上海自由貿易区では、銀行は金利設定や外国為替取引をこれまでよりも自由にでき、預貸率を最適化できる、と説明されているが、自由にできる取引の詳細はまだ発表されていない。外貨が自由に流入すれば、規制当局は、厳しい規制下にある国内経済にこれが流れ込むのを防ぐために、「防火壁」を設けなければならなくなるとも言われている。いずれにしても鳴り物入りで設立されたにしては設立式典は控えめで、参加した高官は高虎城商務相だけであった。)
土地改革
土地の確保は改革の重点である。しかし、これをいじると地方政府の「ミルク」を取り上げることになり、各地方政府は猛烈に反対するだろう。
(中国では急激な工業化の環境整備の一環として、農地の工業地への転用や農業の大規模経営を通じた現代化を進めること、大都市周辺地域での農地の転用を促進し都市部の土地制約を緩和することが必要であるとされている(国務院発展研究中心金融研究所副所長、1月23日付『経済参考報』)。一方、地方政府は土地市場への介入を通じて巨額の「非正規」財政収入を得ている。土地(使用権)の処分は地方政府の独占的権利であり、土地取引税および費用徴収に加え、本来村民に帰属する代価を理由をつけて巻き上げることがあり、暴動発生の原因となっている。ここで言っている「ミルク」はそのような「非正規」土地関連収入のことであり、それが財政収入の50%に達しているところもあると言われている。)
都市化・戸籍改革
この問題は特権階級の利益にかかわる。現在、2.6億人の「農民工」が都市で働いている。もし彼らに都市住民と同様の福利厚生を認めれば、すでに巨大な財政赤字に苦しんでいる地方政府はさらに大きな財政圧力を受けることになる。したがって、この改革は最終的には大幅に後退させられる可能性がある。
(従来政府は、農村戸籍を都市戸籍に変更することをかたく拒んでいたが、農村戸籍農民を劣悪な待遇で働かせることは一種の搾取であり、この制度は改善しなければならないという認識はすでに存在していた。しかし、現実にそれを実現するとなると、やはり問題が生じるのであろう。中国では現在、一部地方で農村戸籍農民を都市戸籍に入れる、あるいは変更することが始められているが、既得権益の側からも、また戸籍を変えた農民にも不満が出ているようである。)
财税改革
中央政府と地方政府の利益をバランスさせることは大変困難だ。「分税制」が導入されて以来地方政府の税収は減少している。地方政府は財政需要を満たすため、もろもろの手段で収入増を図っている。
(「分税制」とは中央と地方に入る税収を税の種類ごとに明確化した制度である。たとえば、関税は中央、不動産関連税は地方というように分類した。中央と地方で分け合う税もある。1994年の「分税制」導入により、中央政府は潤ったが、地方政府の財政収入は激減した。その代わり、認められたのが土地の処分から得られる「不正規」収入である。)