メディア掲載  外交・安全保障  2013.10.18

対中国だけではない「日米2+2」の隠れた成果

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2013年10月17日)に掲載

 この原稿は中東のカタールで書くつもりだった。ゼロ泊3日の強行日程でブルッキングス・ドーハ・センターと日本外務省共催の安全保障ラウンドテーブルに参加するはずだった。運悪く飛行機が欠航、筆者の発言内容は代読してもらった。幸い内容の濃い良い国際会議だったそうだ。

 一つだけ気になることがある。参加したアラブ論客はアジア情勢をほとんど知らない。中東と東アジアは今や単一の戦域であり、両地域の関係国間で政策協調が必要との筆者の主張には反応が鈍かったそうだ。アラブ知識人の欧米志向は日本以上に深刻だ。西方ばかり向いたアラブ諸国と戦略的対話を行うことの難しさを痛感させられた。

 しかし、日米同盟は着実に進展している。大手銀行と暴力団の癒着や米大統領アジア外遊中止などのニュースに隠れてしまったが、今月3日に東京で開催された日米安全保障協議委員会(2+2)は大きな成果を上げた。外務省時代には合計10年、日米安保問題を担当したが、これほど意義の大きい2+2は久しぶりではなかろうか。

 2013年秋の時点で、日米外交・国防閣僚が東京で一堂に会し、集団的自衛権行使に関する検討をも含め、最近の日本側の取り組みを米側が歓迎し、ガイドラインの見直しなどに合意したことの意味は実に大きい。某有力紙は今回の2+2を「日米、同床異夢」と報じていたが、どう意地悪く分析しても、そんな結論にはならない。理由はこうだ。

●中国への言及-確かに日米間の温度差はあったが、「思惑の隔たり」とまでは言えない。その証拠に中国には言及された。問題は「海上における力による安定を損ねる行動」や「宇宙、サイバー空間での攪乱行動」。共同文書に明示しようがしまいが、それが中国であることは自明だ。いずれにせよ、中国側は既に反発しているではないか。

●軍拡への言及-中国の「急速に拡大する軍事面での資源の投入を伴う軍事上の近代化」という、より踏み込んだ表現が加わった。僅かな違いではあるが、より明確なメッセージとなったことは言うまでもない。

●宇宙における協力-驚いたのはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の米国への情報提供だ。諸外国であれば当然だろうが、一昔前の日本では考えられなかった政府間協力である。日米同盟が進化を遂げつつある具体例であろう。

●高度な能力-米軍の高性能兵器の日本国内への配備・展開にも言及された。オスプレイやF35Bだけでなく、最新対潜哨戒機P8、無人偵察機グローバルホークも含まれる。こうしたシステムが持つ抑止効果は決して小さくないだろう。

●安倍政権の取り組みを歓迎-何よりも効果的だと思われるのがこのくだりだ。昨年末の政権発足以降、米政府の安倍内閣を見る目は必ずしも温かいものではなかった。日本から発信された情報が誤解を生み、ここぞとばかり一部の周辺諸国が大いに騒ぎ立てた。

 しかし、集団的自衛権を含む安全保障の法的基盤の再検討、防衛予算の増額、防衛計画大綱の見直し、領域防衛能力の強化、東南アジア諸国への貢献など一連の政策を米国自身が明示的に歓迎した意味は大きい。これを機会に韓国もこの文書の政治的意義をよく研究してほしいものだ。

 このほか、沖縄を含む在日米軍基地再編問題でも目立たないが進展があった。筆者が外務省を辞めたのは8年前だが、爾来日米同盟は民主党政権時代の悪夢を脱し、ようやく本来あるべき姿に戻りつつあるといえるだろう。

 ドーハでの会議で、有事の際湾岸アラブ諸国に東アジアの安全保障を考える余裕などないことが分かった。仮に米軍が中東に再回帰しても、東アジアには十分な抑止力が必要だ。今回の2+2の成果は決して小さくないのである。