メディア掲載 グローバルエコノミー 2013.08.22
やっと日本が環太平洋連携協定(TPP)交渉に参加した。参加が遅れたのは、米国に一方的に負かされるという恐怖感を煽られたことが大きい。例えば、公的医療保険制度の修正を日米協議で要求されたことがあるので、TPP交渉でも取り上げられるのではないかと指摘された。しかし、昨年米国の交渉官は、「米国はTPP交渉で取り上げるつもりはない」と言明した。
米国が何でも好きなことを要求した日米協議と異なるのは、TPPは世界貿易機関(WTO)協定を基礎とした協定作りの交渉であることだ。公的医療保険のような政府によるサービスはWTOサービス協定の対象から明確に除外されている。日米協議でボクシングをやりたいというのは米国の自由だが、WTO協定という土俵の上でTPP交渉をする以上、相撲以外の格闘技は認められない。TPP交渉では、米国はこの問題を取り上げようとしても取り上げられないのだ。
TPPは多国間の交渉である。米国が理不尽なことを言ってきても、日本の仲間を見つけることができる。私も、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の交渉で遺伝子組み換え食品の表示についての米国提案を、オーストラリア、ニュージーランドなどを味方につけて、葬った経験がある。TPPでも米国が孤立している分野が多い。
1980年代日本を大変悩ませたものに、米国に対して不公正な貿易を行っていると判断すれば、米国は一方的に制裁措置を講ずるという通商法301条があった。しかし、ウルグァイ・ラウンド交渉で、WTOの紛争処理手続きを経なければ、どの国も制裁措置は講じられないという規定を設け、日本のようなWTO加盟国には301条を発動できなくしたのは、日本の交渉官だった。気後れせずに、米国と交渉してもらいたい。