ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2013.08.01
「財政政策をどのように運営すべきか」という問題は、現実の経済政策を考えるうえで非常に重要な問題である。マクロ経済理論では、課税についてのルールや、政府債務についてのルールについて分析したものはたくさんあるが、財政支出がどのように決まるかについてはあまり詳細には触れず、経済的要因とは別に決まる外生的なもの(たとえば戦争やその他さまざまな政治的要因などが大きな影響があるかもしれない)としてとらえることが多い。
しかし、東京大学の福田慎一教授と富山大学の山田潤二講師の近年の研究によると、「1990年代の財政政策運営は株価を政策ターゲットとしていた」ことが観測されるという。株価が低迷すると、当時の政府は経済のパフォーマンスが悪化したと判断して、経済を刺激するために大規模な財政出動を繰り返していたというのである。福田教授らは、このような財政政策運営が日本の膨大な国債残高の一因になったとしている。
本稿では、標準的なニューケインジアンモデルで、政府支出額が資産価格を考慮しながら決定される場合に何が起こるかを理論的に分析している。その結果、株価をターゲットにした政府支出額の決定は経済の不安定化(均衡の非決定性)を引き起こす原因となる可能性があることを発見した。つまり、株価が下がったからといってそれを見て財政支出を行うことは経済にとって望ましくない政策といえる。これとは対照的に、もし政府がGDPを参照しながら財政支出を決めていた場合は、そのような不安定化の問題が生じないことも理論的に示した。
先にあげた福田慎一教授らの研究では、株価をターゲットとした財政政策運営が日本の膨大な国債残高の原因になったとしているが、本研究では経済の安定化の面から考えても、このような財政政策運営には問題があることを明らかにしたといえる。
Asset Price Targeting Government Spending and Equilibrium Indeterminacy in A Sticky-Price Economy (英語) (PDF:454KB)