コラム  外交・安全保障  2013.05.30

核燃料の再処理

 2013年5月2日付米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は日本の核燃料再処理に関して、「日本は米国政府の反対にもかかわらず(over the objections of the Obama administration)大規模な六ヶ所村工場を稼働させようとしている」という書き出しの記事を掲載している。

 米国が具体的に何と言って反対しているのか、説明はないが、この記事は全体として、六ヶ所村工場の稼働開始は、核拡散を助長するおそれがあるという趣旨である。次のようなことも言っている。厳密な引用でないことを断っておく。

 「北朝鮮の活発な核開発にかんがみると、六ヶ所村工場の稼働開始は本来の想定よりはるかに広範な影響(far reaching affect)を他の核計画に及ぼすおそれがあると日、米、韓の官員(officials)は恐れている。
 中国、韓国および台湾は六ヶ所村を注意深く観察しており、中国は現有の設備を拡大すべきか、また、他の国は自分たちの核燃料技術を開発すべきか検討するための参考にしようとしている。韓国はすでに日本と同様の再処理の許可を米国に求めている。また、中国は仏アレバ社と六ヶ所村と同規模の再処理施設の建設契約を結んだ。
 六ヶ所村の稼働開始はこの地域に新しい次元の摩擦(a new dimension of friction)を惹起する恐れがある。」

 

 日本はNPTの核保有国でないが、例外的に核燃料の再処理が認められている。しかし、この状態に黄色信号が点いている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙はクウォリティ新聞であるが、その報道内容が完全に正しいという保証はない。しかし、この記事は米政府の考え、あるいは立場をかなり反映しているように思われる。

 東アジアで拡散の危険があると見られているのは韓国と台湾である。とくに韓国は現行の米韓原子力協定の期限が2014年に切れるので、その改定を求めて2010年から米国と交渉を始めており、日本と同等の待遇、すなわち再処理の許可を求めているそうである。

 これに対し米国は、韓国が再処理の許可を求めても拒絶することはさほど困難でなかったが、グローバル化と韓国の経済成長に伴い、韓国の国際社会における地位はかなり向上しており、経済面では米国との相互依存の関係も深まっている。これまでのように、日本には認めるが、韓国には再処理を認めないという方針を呑ませるのは困難になっているが、それでも米国は認めないだろう。北朝鮮の問題がある上に、韓国や台湾が再処理を始めることは核不拡散の観点から何としてでも阻止したいという考えだからである。

 日本として、米国と第三国との関係は今後も注目が必要であるが、要は日本自身のプルトニウム・ストックが増えるのか、それとも減るかであり、米国がこれに神経質になるのは無理もないことである。もちろん日本側の関係者も、このことは百も承知しているであろう。しかし、今後日本のプルトニウム・ストックは減少する、プルトニウムを作り出す六ヶ所村を稼働させてもストックは減少すると断言できる人はいるだろうか。

 プルトニウムは原子力発電から出た使用済み燃料を再処理し、ふたたび燃料として使用する(それを繰り返す)ことにより、最後まで残る「死の灰」は小さくなり処理しやすくなる。一方、ウランを使用する原子力発電が続くことからまた新たなプルトニウムが作られ、再処理のプロセスに入る。つまり、新たに投入されるウランと再処理されたプルトニウムを使用する発電が重層的に行なわれることが想定されており、このプロセスがすべて順調に機能して初めてプルトニウム・ストックは増加させずに済み、減少することもありうる。

 しかし、福島の原発事故で日本の原子力発電はほとんど止まってしまった。にもかかわらず、六ヶ所村で再処理が行なわれれば、プルトニウムは増え続けることになる。使用済み燃料も厄介なものであるが、これが再処理されて作り出され、当面は使用される場所がないプルトニウムは危険である。

 しかも、日本は、プルトニウムを消費する高速増殖炉計画を維持しているが、これは事故続きであり、最近それを管理している日本原子力研究開発機構は原子力規制委員会によって「こういう組織が存続していることを許していること自体が、問題ではないか」と酷評される体たらくであり、したがって、当面は、高速増殖炉によるプルトニウム消費は軽水炉原発より期待薄である。米国も含め欧米諸国は概して高速増殖炉の実用化に懐疑的であり、日本がその計画を維持していることを批判する者もいる。このような計画を維持していることは日本の原発・再処理計画における対応の遅れと弱さを象徴しており、日本の原子力政策の足を引っ張る結果になっているのではないか。

 前政権は原発ゼロの方針を打ち出したが、大幅なコストアップを惹起することなくエネルギーの安定供給を確保する見通しはあったか問われている。かりに、原発を止めれば、使い道のなくなる使用済み燃料とプルトニウムをどう処理するか、ということが問題になる。また、再処理を止めても類似の問題が残る。米国も含めどの国も使用済み燃料やプルトニウムを引き取ってくれそうにない。

 一方、再処理も含め核燃料サイクルを維持するためには、安全の問題を解決しなければならない。設備や技術がいかに優れていても、それにかかわる人間は過ちを犯すということも含めてである。いずれも「超」級の難題であるが、国民生活の安全を確保しつつ、安定したエネルギーを確保するためにも、日米原子力協定が2018年7月に満期を迎えるまでに徹底した検討が必要である。