メディア掲載  グローバルエコノミー  2013.04.30

「国益」とは何か

共同通信社より配信(2013年4月7日付)

 環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、国益という言葉が飛び交った。自民党にとって、コメなど農産物関税や医療保険制度の維持が国益のようである。

 しかし高度な治療を受けると公的保険の対象となる治療まで対象外となり、全額負担となるのが現行の医療保険制度である。これでは金持ちしか高度な治療を受けられない。これが国益だろうか。

 コメについては、減反で供給を減少させ価格を上げる政策が40年以上も続いている。しかし関税がなくなり、海外から安い価格でコメが輸入されるようになると、この価格は維持できない。関税がなくなると減反は廃止するしかない。減反を廃止すると国内価格は60キロ当たり8千円程度になり、中国や米国から輸入しているコメの価格9千円を下回るようになる。輸入が行われないばかりか、米価の低下で消費は増え、国内生産は拡大し、食料自給率は向上する。

 政府は減反のため5千億円の財政負担をした上で、米価を上げて消費者に6千億円の負担をさせている。合計で国民負担は年間1兆円を超える。関税や減反を維持することが国益なのだろうか。

 コメに限らず、関税がなくなり価格が低下しても、米国や欧州連合(EU)のように財政で補塡すれば農家は影響を受けない。価格低下で消費者は利益を受ける。この20年で3分の1がなくなったコメの国内市場は、人口減少でさらに縮小する。品質面で評価の高い日本の農産物が価格競争力を持つようになれば、わが国農業は世界の市場を開拓できるようになる。これが国益ではないのか。

 守るべき国益は健康や農業であって、特定の制度や手段ではない。今ある制度や手段に固執しようとする動きには利権のにおいがしてならない。