コラム  外交・安全保障  2013.04.30

日台漁業協定

 日本と台湾は4月10日、漁業協定を締結した。快挙と言ってよいだろう。実務協定であるが、中国と台湾がわが国の領土である尖閣諸島に対する領有権を主張するという困難な政治状況の中で合意されたものだからである。

 今回の協定は、日本の排他的経済水域(EEZ)のなかを対象にして台湾漁船に操業を認めているが、対象となる水域は台湾が主張しているEEZにも入り込んでおり、そちらでは日本の漁船が操業できる。日本側が一方的に譲ったということではなさそうである。

 沖縄の漁業者は、台湾漁船の違法操業に懸念を抱き、周辺水域の秩序維持、安全操業の確保、取り締まり強化などを求めていると聞く。報道によれば、「沖縄の漁業者の8割の声は反映した合意だと思うが、台湾の操業を認める漁業水域に近い久米島の漁業者からは不満もあるかもしれない」と、ある政府関係者は語ったそうである。日本政府が沖縄の漁業者の利益を擁護しなければならないことは当然である。

 また、台湾の漁民への配慮も必要である。台湾の漁民は日本の漁民に混じって昔から尖閣諸島周辺の水域で操業してきた。嵐に遭って魚釣島に上陸することもあった。日本の漁船に救助され、長崎の中華民国総領事が感謝状を贈ったこともあった。

 今回の合意達成についてはさらに注目すべき点がある。日台間の漁業協議は17年前に開始されたが2009年2月を最後に中断されており、協議再開の動きが出てきたのは昨年の秋であった。このように長い間交渉が進まなかったのに、なぜ尖閣諸島で騒がれているこの時期に合意できたのか。日本側が交渉再開に積極的であったのは明らかである。

 一方、馬英九総統はマグロはえ縄漁などを控えて漁民の利益を考慮する必要があったと述べているが、それは毎年のことであり、今年が特別なのではない。中国は尖閣諸島問題に関し台湾に共同行動を呼びかけていた。今回の台湾と日本との合意は、漁業に限ったこととは言え、中国と足並みを異にするものであると中国は取るかもしれない。そうなれば、台湾の強硬派に跳ね返ってくる恐れもある。領有権問題について台湾が方針を変えたとは思わないが、そのような危険があるにもかかわらず、実務的なことは別に扱い、解決に応じたことは称賛に値する。馬英九総統は尖閣諸島問題についてがんらい強硬派であるが、「主権は分けることは出来ないが、資源は分かち合える」などと言っているそうであり、現実的な対応をしているように思われる。

 台湾が東日本大震災に際し巨額の義捐金を贈ってくれたことに日本人は厚く感謝している。それに対する謝意の表明においてかつては不適切なこともあったが、先日の大震災2周年の記念式典では、台湾政府と国民の善意に礼を尽くして感謝の気持ちを表明した。そのようなことが台湾にも伝わって、かねてからの日本に対する好意的感情がさらに強められたかもしれない。

 中国との関係については、日本側としては、漁業権問題を領有権問題と切り離し台湾側に配慮を示すことで、尖閣問題をめぐる中国と台湾の「対日連携」を分断する戦略的狙いがあるとも言われている。その真否はともかく、少なくとも今回の合意は、政治的に対立していてもおたがいに冷静に対処する一つの模範例を示す意義があるだろう。

 中国外交部の洪磊報道官は、12日の記者会見で、「釣魚島およびその付属島嶼は中国固有の領土である。中国と日本の間の漁業問題については、両国は1997年に漁業協定に調印している」と述べた上で、「関連海域で日本が一方的な行動をとることに反対し、中日共同声明で定めた原則と精神を踏まえ、台湾に関する問題を適切に処理することを日本に要求する」との中国の立場を表明した。

 これは中国が不満の気持ちを表明したものだと言われているが、強い非難ではないと思う。中国としても台湾漁民の利益に反する行動は取れない。また、今般日台間で合意した双方の漁船が操業できる水域(法令適用除外水域、すなわち日本の法令の適用が除外される水域)は、1997年の日中漁業協定で日中の漁船が操業できる水域(暫定適用水域)と、場所が北と南と違うだけで内容的には類似している。つまり、北緯27度以北では日中双方が譲る形で、またそれより以南では日台双方が譲る形で両方の漁船が操業できるようになったのであり、この側面を見れば日台漁業協定は日中漁業協定に倣って締結されたとも言える。

 漁業の現実は複雑であり、実際には協定が想定していない、漁民の利益が損なわれる事態も起こっている。また日中台に限らず、韓国の漁船も操業する可能性がある。今後はすべての関係国の当事者に、東シナ海における安全かつ秩序ある漁業の維持のため努めてもらいたい。