論文  外交・安全保障  2013.04.02

日本と南シナ海―利害対立のある地域における戦略的パートナーシップの構築―

 フランスのシンクタンクInstitut français des relations internationales (Ifri) とキヤノングローバル戦略研究所(CIGS)との共同報告のExecutive Summaryの翻訳を掲載します。

 なお、Ifriのウェブサイトに掲載された原文(英語)はこちらからもご覧いただけます。
Japan and the South China Sea Forging Strategic Partnerships in a Divided Region



【Executive Summaryの翻訳】

 中国との緊張関係が高まる中で、日本は東南アジアにおいて戦略的に深く関与している。南シナ海では領土紛争を巡って再三摩擦が生じ、その安定が脅かされているが、シーレーンに依存する日本は、南シナ海の安定を維持することに重大な利害関係を有する。また、中国がますます強大化し自己主張を強めており、これとの均衡を保つために、日本は、東南アジア諸国を重要なパートナーとみなしている。

 よって、日本は、海洋および安全保障に関して東アジア地域の制度的な発展を促進し、同地域における安全保障協力を強化しようとしている。しかしそれ以上に重要なことは、日本の安全保障協力が、戦略的なパートナーシップの構築、および同じ考えを持つ国々(特にインドネシア、フィリピンおよびベトナム)の海上能力向上のための援助を通じてなされていることである。この観点から、日本は防衛外交を強化し、安全保障目的の政府開発援助(ODA)についてより大きな金額を供与し、また新たな軍事援助プログラムを開始している。

 これらの取組みは、東南アジアにおいて現在進行中の影響力の「グレート・ゲーム」を増幅させており、日本は、その「ゲーム」において中国にソフトパワーで対抗し、米国の持続的なプレゼンスを支援しようとしている。しかしながら、戦略的なパートナーシップ作りは容易ではない。ASEAN諸国は、多極化の傾向を強めており、大国の争いに対して受け身ではない。ASEAN諸国は、重要なプレーヤーの関与を引き寄せる一方で、安全保障とそのための協力に関して「ソフト的な取決め」を行って、最終的に生じ得るリスクをヘッジしようとしている。

 東アジア諸国がますます利害対立を深めているかのような様相を呈し、影響力の競争が増大している情勢の中で、欧州は政治的に不在である。にも拘らず、欧州諸国のより一層の政治的・軍事的な関与が、特に日本などにおいて期待されている。しかし、EUの東アジアへの「ピボット」の可能性について議論が展開されるとしても、多くの障害や限界によって同地域における欧州の影響力は容易に拡大され得ないと思われる。複数の専門家は、EUが東アジアにおいて補完的な役割を果たすことで米国のピボットを支援すべきだとする一方で、欧州の強みと弱みを理解し、アジアの舞台からは遠ざかっているべきだと主張する者もいる。

 (文責:事務局)