メディア掲載  グローバルエコノミー  2013.02.05

決断遅れれば大きな不利益

共同通信より2013年1月27日付配信

 ―日本は環太平洋連携協定(TPP)交渉に早急に参加すべきだ、と論陣を張ってきた。

  「関税が原則として撤廃され投資などのルールが整備されれば、日本はアジア太平洋地域の成長を取り込むことができ、経済が活性化できる。タイやフィリピン、韓国もいずれ参加するだろう。参加国が増えれば中国も入らざるを得なくなる」


 ―米国の狙いは。

  「中国だ。例えば中国の国営企業は貿易も流通も独占し、輸入品に事実上の関税をかけている。米国はこれを問題視し、TPPで国営企業に対する規律を初めて導入しようとしている。中国が参加したときに規律を課そうという戦略だ。これは日本にとってもよいことだ。日本はこうした分野で米国と共闘できる」


 ―農業が壊滅するというTPP反対論が多い。

  「野菜や果物の関税率はすでに数%にすぎない。コメの内外価格差は30%程度に縮小しており、減反を廃止すれば価格はもっと下がる。関税を撤廃しても、例えば10年間の段階的な引き下げ期間が認められれば、その間に農業を強くできる」


 ―望ましい農業政策は。

  「農地の集約を進めつつ、コメの減反を廃止し、関税による保護から農業所得が中心の『主業農家』に財政から直接支払う制度に転換すべきだ。これに農業全体で年約4千億円必要だが、約6千億円のコメの減反補助金と戸別所得補償の予算をやめれば足りる」


 ―医療など多くの分野で米国の要求をのまされるとの見方がある。

  「公的医療保険のような政府サービスは世界貿易機関(WTO)協定の対象外で、これを前提とするTPPの土俵にはそもそも乗らない。カトラー米通商代表補も、公的医療保険の問題は取り上げないと言明している。食品の安全規制についても、各国が科学的証拠に基づき、国際基準より高い輸入規制の水準を設定できるというWTO協定の仕組みが、TPPで変更されることはない」


 ―投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項にも懸念の声が高い。

  「この条項で日本政府が外国企業に訴えられ、規制を変更させられるといわれるが、すでに日本が外国と結んでいる多くの協定にこの条項は存在する。外国企業だけを差別的に扱う規制でない限り、訴えられることはない。米国企業も負けている例が多い。TPP反対論の多くは、通商交渉や国際法に関する無知に基づいている」


 ―妥結の時期は。

  「すでに3年近く交渉しており、議論はだいたい煮詰まっている。各国が最後に政治的決断をする時期に来ているが、米国は来年に中間選挙を控え、今年が決断をする一番いいタイミングだ。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる10月に妥結する可能性は高い」


 ―日本に残された時間は少ないのでは。

  「安倍晋三首相は、7月の参院選前に参加表明はできないだろう。9月に表明しても、日本の参加を認めた米政府が議会の承認を得るのに90日かかる。12月では交渉は終わっている。新参者として出来上がった協定に参加するには、加盟国の要求をすべて受け入れなければならない。関税撤廃の例外要求は困難だ。これでまた農業界から反対論が高まれば、日本は未来永劫(えいごう)TPPに参加できず、関税ゼロの広大なアジア太平洋地域から完全に排除されてしまう」