メディア掲載 グローバルエコノミー 2013.02.01
◆衆院選前に野田佳彦前首相は環太平洋経済連携協定(TPP)参加に意欲を示していた。
野田前首相がやろうとしたことは良かったが、反対の声が根強い民主党内の和を優先したため、中途半端に終わった。一方で、「聖域なき関税撤廃を前提にした交渉参加に反対する」と主張する自民党にも曖昧さが残る。
◆国内の農業団体は強硬な反対姿勢を崩していない。TPPの何が問題なのか。
JA全中(全国農業協同組合中央会)などが主張するTPP反対論には間違いがある。まず「TPPは米国の陰謀」という米国主体の見方は誤解だ。米国は交渉の場でニュージーランドや豪州などから激しく攻め立てられており、米国だけで決められない。また、日米2国間の協議と世界貿易機関(WTO)をベースとした法的な協定であるTPPは別のものだ。反対論の中に「TPPで国民皆保険制度が崩れる」との意見があるが、WTOで対象となっていない公的医療保険はTPPで取り上げられない。反対のためにつくられた「TPPおばけ」をどう排除するかが課題だ。
◆新政権はTPPにどういう態度で臨むべきか。
日本がTPPに参加する狙いとして重要なのは、中国を多国間貿易の枠組みにどう引き込むかという視点だ。尖閣諸島問題で中国がレアアースの輸出を停止したように、中国は国際自由貿易のルールから逸脱してしまうリスクがある。米国も中国をアジア・太平洋の自由貿易の枠組みに取り込むことをTPPの狙いにしており、この点で米国と日本の利害は一致する。
安倍政権は日本にとって脅威であるのは米国なのか、中国なのかを冷静に分析し、戦略を組み立てる必要がある。TPP交渉で米国は孤立しており、日本が米国を助ける形で協定をまとめることができればベストだ。
◆新政権は参院選まで慎重な姿勢で、TPPで明確な態度を打ち出せないとの見方がある。
安倍晋三首相は交渉に参加しないデメリットを真剣に考えるべきだ。昨年12月の拡大交渉会合で参加11カ国は今年中に妥結を目指す方針を確認した。10月にも基本合意に達する可能性がある。
実は日本はタイムリミットを過ぎたと感じている。拡大交渉会合に参加していない国が交渉国として参加するには参加国全ての了承が必要だか、米国議会ルールがポイントになる。米国では交渉開始90日前に議会への伝達が必要なので、日本が参加表明してもすぐに参加できるわけではない。 自民党内に反対派が多い安倍政権が調整に手間取り、参加表明が9月ごろになるとしても、日本は今秋の交渉妥結後に加わることになる。原加盟国ではなく新規加盟国になり、原加盟国が決めたルールや関税撤廃などの要求を受けるしかなくなる。
自民党は国内市場だけを守る政策を続けるだろう。だが、かつて1200万tあったコメ生産量が800万tにまで減った現状では農業の将来は輸出しかなく、そのためにもTPP参加は必要なのだが、なかなか国内の議論はまとまらない。将来、TPPへの乗り遅れが自動車産業などに深刻な打撃を与え日本経済がクラッシュすることで、ようやくTPPの重要性がわかる羽目に陥ることになるかもしれない。