メディア掲載  グローバルエコノミー  2013.01.25

農産物の関税

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2013年1月22日放送原稿)

1.自民党政権移行後も、TPPに参加するかどうかが大きな政治課題となっています。焦点は、農産物の関税をすべて撤廃するか、それに例外を設けるかどうかです。日本の農産物関税はどのようになっているのでしょうか?

 日本の農産物関税には、花や綿など関税が全くかからないものがある一方で、コメやコンニャクなどのように200%を超える高い関税品目があります。パーセントにすると、コメは778%、コンニャクは1706%だと言われています。
 農産物全品目のうち、関税がゼロの品目は24%、0%を超え20%以下の品目は48%、合わせると関税20%以下の品目の割合は72%にもなります。これに対して、200%を超える関税品目の割合は8%程度です。つまり、日本の農産物のほとんどは、関税がかからないか、極めて低い品目なのです。
 一般の人は、農業と聞くとコメを発想されると思います。確かに60年代まではコメが日本農業のかなりを占めていましたが、今では、我が国の農業総生産額のうち、コメの割合は19%に低下しています。逆に、ほとんど関税のかかっていない野菜の割合は28%、果物は9%、養鶏業は9%、花は4%、これだけで5割です。TPPに参加して関税を撤廃すると、日本農業は壊滅するという主張が行われていますが、これは正確ではありません。


2.関税の低い品目がほとんどで、一部に高い関税品目があるということですが、農産物の関税はどのようにして決められたのでしょうか?

 今の関税システムは、1993年に妥結したガット・ウルグァイ・ラウンド交渉の結果、できあがりました。当時、日本の農産物輸入は、関税さえ払えば自由に輸入できるものと、一定数量以上は輸入させないという数量制限制度の下にあるもの、の二つから成り立っていました。関税自体は、どちらの制度のものでも、高くはありませんでした。
 ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉では、数量制限は禁止され、関税だけの輸入制度とすることが合意されました。その際、数量制限を廃止する代わりに、数量制限対象品目に限り、国内価格と国際価格との差、つまり内外価格差を関税に置き換えることが認められました。これが、「関税化」と言われるものでした。当時も、関税化すると日本農業は壊滅すると叫ばれました。コメ以外の品目は1995年から、コメは遅れて1999年から、関税化しました。しかし、農業への影響はほとんどありませんでした。
 内外価格差で置き換えられる関税については、国内農業を保護するため、できる限り大きな数値を設定しました。具体的には、国内価格と比較する国際価格について、できり限り安いものを使ったのです。コメについては、日本米のようなもちもちとした短い粒のコメではなく、パサパサした長い粒のタイ米の価格を使いました。タイ米は、1993年にコメが大不作の時に輸入しましたが、日本人の嗜好に合わず、農水省は日本米と混ぜて販売しましたが、大量に売れ残りました。本来比較するのは適当ではないのですが、関税を高くするために、タイ米の価格を使ったのです。こうしてキログラムあたり402円という関税が設定されました。今の関税は、ウルグァイ・ラウンド合意に従い、これを15%削減した341円となっています。今の国内の米価は230円程度ですので、これを大きく上回っています。たとえ輸入米の価格がゼロでも、関税を払うと国内のコメと競争できません。過剰な保護関税といえます。
 しかも、これは一般に関税で使われている輸入価格の何パーセントという従価税ではありません。重さの単位ごとに一定額を関税とする従量税と言われる特殊なものです。円高が進むと輸入価格が下がるので、関税をパーセントで決める従価税だと、国内市場に入るときの輸入品の価格も大きく下がります。価格と関係しない従量税だと、輸入品の価格低下は抑えられ、農業への影響を最小限にできるからです。
 具体例で説明しますと、輸入品の価格が100円で、従価税100%、従量税100円のとき、どちらの関税でも、通関後の輸入品価格は200円となります。しかし、円高で輸入品の価格が50円に下がると、従価税の時は関税が50円となり、通関後の輸入品価格は100円となります。従量税の時は関税は100円のままなので、通関後の輸入品価格は150円となります。
 いずれにしても、当時数量制限の対象ではなかった野菜などの関税は低いままで、数量制限の対象だったコメなどの関税は大幅に高くなったのです。これが、日本の農産物関税に低いものと高いものがある理由です。


3.メディアでは、コメは778%、コンニャクは1706%だと報道されていますが、これは間違いなのでしょうか?

 WTO、世界貿易機関のドーハ・ラウンド交渉は今頓挫していますが、交渉の過程で、高い関税については大きく削減することが合意されました。具体的には、20%以下の低い関税は50%削減で済みますが、75%以上の高い関税は70%削減することとなったのです。しかし、日本の関税化品目のような従量税については、それが何パーセントに相当するのか調べる必要が出てきました。そのため、農水省が計算したのが778%などという数字です。
 つまり、実際に778%の関税があるわけではないのです。あるのは、キログラムあたり341円という関税です。778%を前提とした分析をよく目にしますが、これは誤りです。
 コンニャクが2000%近い関税なのは、産地の群馬にたくさんの総理経験者がいたからだと言われますが、これも間違いです。コンニャクは東南アジアでは自然に生えています。それを引き抜くだけでよいので、コストも価格も極めて低くなります。それを農家が栽培している日本のコンニャクの価格と比較したために、異常に高い関税となったのです。
 いずれにしても、一部品目に高い関税が残っているのは事実です。消費者は国際価格より高い価格を農産物に支払っています。消費税に関して逆進性の議論がありますが、日本の農産物貿易政策も極めて逆進性の強いものだといえます。アメリカのように農家に対する直接支払を導入し、農産物貿易政策を変更すれば、消費税で軽減税率の検討をする必要はなくなります。