コラム  外交・安全保障  2012.12.21

北朝鮮の「ミサイル」発射

 北朝鮮は12月12日、トンチャンリ(東倉里)の発射場から「人工衛星」を打ち上げ、軌道に乗せることに成功したと発表した。北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)もこのことを確認した。NORADは冷戦時代ソ連の核攻撃から北米大陸を守るために設立された米国とカナダの共同防衛体制であり、危険なミサイルが飛んで来ないか常時見張っている。今回の発射に関するNORADの発表は慎重で、「人工衛星」とは言わず、「物体(object)」と表現していた。北朝鮮が打ち上げた「人工衛星」は、電波の発信などがまだ機能していないらしいが、これは比較的細かいこととして目をつぶれば、北朝鮮の「人工衛星」発射成功は世界で最も高度のシステムによって確認されたわけであり、今年の4月、発射実験に失敗して以来の短期間に北朝鮮がかなり進歩したことが窺われる。

 今回の発射実験に関する報道を見ると、最初は、北朝鮮が「ミサイルを発射した」という表現が多かったようであるが、少し時間がたつと「人工衛星」と鍵カッコつきで呼ぶのが多くなった。NORADは単に「物体(object)」と呼んだ。こうして今回の発射実験については、「ミサイル」「人工衛星」「物体」の三つの呼称が使用されているが、何と呼ぶのがもっとも適切か。

  「ミサイル」と呼ぶのは、国連安保理の決議と関係がある。同決議は「弾道ミサイルのテクノロジーを使ういかなる発射」も禁止したので、北朝鮮が「人工衛星」と称してもミサイル発射と同様に扱われることになっていたからである。ただし、一般の報道では、ミサイルと言い切るだけの材料もないので、「ミサイル」とカッコ付きにしている。

 このような呼び方は、北朝鮮のロケット技術が未熟で、「人工衛星」と言っても打ち上げに失敗している限り問題は生じなかったが、今回のようにNORADも認める打ち上げ成功となると、「ミサイル」では周回軌道を回っている物があることを表現できなくなる。そこでNORADは、「物体」と呼んだ。それは「死んだような(NORADの評価)」状態にあるそうであり、「物体」という呼称はちょうどよい。

 しかるに、北朝鮮は今後、国際社会の意思にそむいて、「人工衛星」を再びどころか、何回も発射するであろう。そうすると、北朝鮮が発射したものの精度が向上し、「生きた人工衛星」らしくメロディーや映像を地球に送ってくるようになる可能性があり、その場合でも「物体」と呼べるだろうか。国際社会の意思を無視するかぎり「人工衛星」でないといつまでも言い切れるか、どうも疑問である。

 そもそも、人工衛星であろうとなかろうと、ミサイルと同じテクノロジー、つまり高性能のロケットを使うのを禁止するというのは乱暴な要求であるが、国連があえてそのような内容の決議を成立させたのは、北朝鮮がこれまで危険な行動を繰り返し、ミサイルについてもピョンヤン宣言などに反して発射実験をしてきたからであった。その意味では、国際社会が極端な要求をしたのは、むしろ北朝鮮に責任があったのである。

 今後、北朝鮮が発射を繰り返すとさらに事態が悪化するというのが大方の見方であろう。しかし、本稿で論じたように、「人工衛星」であることが明確になればなるほど、北朝鮮は平和目的のために宇宙利用をしているという性格が強くなる可能性がある。しかし、現実にそのような方向に向かうには、北朝鮮がミサイルを発射しないことが必要であり、また、「人工衛星」の打ち上げとミサイルの発射とをいかに区別するかという問題も解決しなければならない。

 北朝鮮は今回、技術的な問題が発生しているように見せかけながら発射を敢行するというフェイントをかけた。行儀の悪いふるまいをしたものであるが、北朝鮮は自らの技術力に自信を持ち始めているようである。前回、各国の記者を発射現場に招待したこともかなり大胆であったが、今回のフェイントは、発射が失敗すれば技術力の未熟さを自らプレーアップする危険があったはずである。そのような危険を冒しながらも小細工をした裏には北朝鮮の自信のほどがうかがわれる。いや、北朝鮮は相変わらずの危険な冒険主義を繰り返しただけだという見方もあろうが、すくなくとも、北朝鮮の技術力は幼稚だという固定観念で見るのではすまなくなっているように思われる。

 日本の立場は微妙である。日本においても、北朝鮮の「人工衛星」は危険だからという考えの下に、途中で爆発して破片が飛んでくるのに備えて自衛隊が保有する最新鋭の防衛ミサイル(PAC3)を配備したが、将来、メロディーも映像も送ってくる人工衛星が発射されるようになっても、同じ防衛体制を取るべきかという問題がある。

 また、そのような新しい状況の中で、国際世論形成の面で日本としていかなる役割を果たすべきか。日本は北朝鮮の核・ミサイルの脅威をもっとも深刻に受ける立場にあり、また、西側諸国と価値観を共有するだけに、どのように対応し、発言するか、国際的に注目されている。