メディア掲載  グローバルエコノミー  2012.11.28

日中経済の課題

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2012年11月27日放送原稿)

1.中国共産党第18回大会が開催され、習近平氏など中国政府の最高幹部が選出されました。その直後に、北京を訪問されたようです。  

 党大会が終了した翌日に開催されたシンポジウムに招かれ、討論してきました。シンポジウムの大きなテーマは"中国と世界"というもので、成長が鈍化し、またさまざまな課題を抱える中国経済をさらに発展させるためには、どのような改革が必要か、その際、世界経済との結びつきをどうするのかというものでした。参加者は、中国側からは、日銀にあたる中国人民銀行の総裁をはじめとする政府関係者、研究者、経済界の人たち、海外からは、アメリカの国務省や財務省の関係者、中国研究者、エコノミストなどでした。日本からは、私と金融業界の人の2人の参加でした。全体として、中国側はアメリカとの関係を相当意識しているように思いました。


2.全体として中国の印象はいかがだったでしょうか?  

 新体制に移行した直後の会議という気持ちの高ぶりがありました。他方で、このままでは中国経済は以前のように発展できないのではないかという危機感も感じました。多くの中国人の発表者が、汚職の防止、独占的で非効率な国有企業の改革、所得格差の是正、投資に支えられた経済成長から、内需としての国内消費に重点を置いた成長を行うべきだなど、改革の重要性を指摘しました。共産党大会では、改革という言葉が頻繁に使われたと紹介する人もいました。
 他方で、アメリカの研究者からは、改革は言われるだけで進まない、国有企業の改革も1995年から指摘されており、それから17年も経ったが、何も変わっていないという、厳しい指摘もなされました。
 ただ、私として興味深かったのは、日本では小泉内閣の市場経済重視の構造改革が格差を生んだとか盛んに批判されるのですが、中国のどの発表者も市場経済の重要性を強調していたことでした。また、他の国が行っている貿易や投資についての保護主義的な動き、つまり中国製品に対する関税引き上げや中国企業による企業買収を妨害することなどは、非難されるべきだという発言や、グローバル化の中で中国だけが孤立するわけにはいかないという発言もありました。我が国が内向きの心理になっている中で、中国は市場経済のもとで積極的にリスクをとりながら、海外に打って出ようという姿勢がうかがわれました。


3.山下さんは、どのセッションに参加したのですか?  

 シンポジウムは二日間にわたって開かれ、私はその中の「中国と隣国」というセッションに参加しました。司会者を除いて、パネリストは全て外国人で、アメリカから2人、ロシア、南アフリカからそれぞれ1人、それに私でした。


4.どのような発表を行われましたか?  

 他の人がどのような発言を行ったかは、差しさわりがありますので、控えますが、私は次のような発言を行いました。まず、日本と中国の経済関係の密接さです。
 日本は、ODA、政府開発援助で中国の経済発展に貢献しました。天安門事件の後、一番先にODAを再開したのは、日本です。
 日中貿易については、まず規模が大きいという特徴があります。日本にとって中国は最大の貿易相手国、中国にとって日本は二番目の貿易相手国となっています。さらに、中身にも特徴があります。日本はハイテクな部品や素材、工業用機械を中国に輸出し、中国はこれらを使って作った製品を欧米に輸出しています。つまり、両国は、部品から完成品の製造まで、相互依存で切り離せないサプライ・チェーンを形成しているのです。
 投資の面でも、日本は中国にとって最大の投資家です。今年の1月から8月まで、世界全体の中国への投資は3.4%減少しているのに、日本からの投資は17%も増えています。さらに、日本からの投資は中国の安い賃金をあてにした投資から、所得の高い中国消費者向けの商品を中国国内で製造するための投資、サービス・販売業の投資が増えてきています。このような投資のありかたは、中国が輸出中心から内需中心の経済発展を行う上で、大きく貢献できます。
 次に、このような両国の経済を発展させるために、二つのことを指摘しました。まず、日中間で経済連携協定を結び、関税の撤廃、製品基準の統一、投資の自由化などを行えば、経済関係をさらに発展できます。また、中国が直面している、環境問題、経済の構造調整、都市と農村の所得格差の是正、国有企業の問題などは、60年代から80年代にかけて、公害、円高や日米摩擦への対応、農村地域への工業導入、国鉄や電電公社の民営化など、日本が既に経験してきたことです。成功した政策もあれば、失敗したものもありますが、中国は日本の経験からヒントを得られるはずだと指摘しました。


5.領土問題についての質問はありましたか?  

 聴衆の人からありました。私は、日中間に領土問題は存在しないというのが日本政府の立場だと述べました。その上で、日本はロシアとの間でも、韓国との間でも、領土問題を持っているが、政治的な問題が経済に悪影響を与えていない、政治的な問題で日中間の経済的な相互依存関係を損なうべきではないと答えました。日中間の経済はお互いに切り離せない関係になっています。相手を攻撃すると、それは自分に返ってきます。政治と経済は切り離して処理すべきだと思います。