コラム 外交・安全保障 2012.10.31
尖閣諸島に関する中国メディアの報道やインターネットでは、激しく日本を批判する言葉が飛び交っているが、それはともかくとして、報道の内容にはいくつかの特徴がある。
まず目立つのは、あからさまな軍事力の誇示であり、中国のメディアには最新式兵器が写真入りでしばしば掲載される。たとえば、戦闘機が雪をかぶった高山の上空を飛翔している姿である。海軍の艦艇もよく掲載される。とくに、中国がウクライナから購入した「ワリヤーグ」が改装され、中国初の空母「遼寧」として9月25日に就役してからは、その巨大な姿と訓練の模様などが大きく報道されており、中国が待ちに待った空母を喜ぶ気持ちが率直に表れている。
兵器の誇示とともに、中国兵の信頼性や優秀さが強調されることも少なくない。たとえば、「中国の兵士は死を恐れない」「日本の自衛隊が出てくれば敢然と対応する」「中国は対日戦には自信がある。自衛隊など相手でない」などである(環球時報など)。
9月末の中国海軍艦艇の尖閣諸島周辺海域への回航後には、「中国の海軍艦艇が現れ(中略)日本政府は恐慌をきたした」などという報道が出た(明報)。「恐慌をきたした」というのは、日本のマスコミが中国海軍の行動を比較的大きく報道したのにさらにどぎつく色づけした感じであり、一種自己陶酔的な満足感の表明のようにも聞こえる。
しかし、強気一辺倒ではない。中国の報道には比較的率直で、いわば地道に軍事力を比較しようとする姿勢も見られる。海上自衛隊が導入しようとしている秋月型ミサイル駆逐艦の性能は、それに相当する中国の護衛艦(054A型)よりはるかに高性能であることを率直に報道し、「両国の海軍力の差は巨大である」とも評している(新浪網)。また、日本の野田首相の発言の報道としては正確さを欠くが、「日本の首相、もし武力衝突すれば日本がこうむる損失よりも中国は大きな代価を払うことになるだろうと発言」(環球時報)などがある。
米国が安保条約に基づき軍事介入する可能性についてもメディアやインターネットは強い関心を示し、しばしば報道している。最近、以上のような諸報道とは一味違うものが二、三現れた。かなり想像力をかき立てる内容である。
一つは、「最近日本のあるメディアと専門家は「尖閣諸島をめぐる争いは長期化する方向で発展する」という考えを示し始めている。このような見方は正しい。尖閣諸島であれ、東海(東シナ海)であれ、その境界の画定も南海(南シナ海)主権をめぐる争いもすべて長期化する方向で発展するという主張であり、その長期化、常態化とは実際には双方が我慢比べすることである。このような主張が行われるのは、海洋権益の擁護はあまりにも複雑で、短期間で解決するのは困難だからである」というものである(新華網)。中国の報道は、とくに今回のように日本と対立している場合には、中国にとって都合のよいことのみを報道する傾向が強い。この報道もそうであれば、尖閣諸島に関する問題が「長期化」することを、中国はむしろ都合がよいと考えていることになる。しかも、この報道は、日本側の見解に同調する理由として中国としての考えを明確に述べており、ますますその感が強い。
もう一つは、岡田副首相がさる10月21日、和歌山で行った講演に関する中国側の反応であり、中国側のメディアでは、「(岡田副首相は)日本と中国との間に領土問題は存在しないが、中国が主権を主張しているのは事実であり、双方は話し合いにより現在の状況を鎮静化させなければならないと述べた」と報道された(鳳凰台)。
この発言に関し、翌22日、中国外交部スポークスマンは、尖閣諸島は中国の領土であるとの中国の主張を繰り返しながら、「中国はもともとこの問題を話し合いで解決すべきであるとの立場である」と記者の質問に答えた。この説明は、「話し合い」について岡田副首相と同じ考えであることを強調しているように聞こえる。
注意して読んでもらいたいが、岡田副首相と中国外交部スポークスマンは、話し合いが必要であるという点で一致しているだけで、それ以外の点は微妙に食い違っており、中国側では岡田副首相が「領土問題はない」と言ったことを取り上げて双方の違いを際立たせることはできたはずであるが、そうはせず、共通点を指摘した。
そうしたのは、「長期化」と同様、「話し合いによる解決」が中国にとって望ましいからであろう。つまり、中国は、この問題が長期化し、双方で解決のための話し合いを行うことが中国にとって好都合であるとみなしていることをこれらの報道は示唆していると取れるのである。
なぜ、そういうことが中国にとって都合がよいか。それは、日本は「領土問題は存在しない」として取り付く島がなかったが、話し合いで解決することになれば取っ掛かりができたことになり、一歩も二歩も前進したことになるからであろう。
一方、日本にとっては「話し合いによる問題の解決」は不利である。もともと問題がないので話し合いする必要などないからである。
では、日本として、やはり取り付く島のない態度を堅持するのがよいかというと、そうとは限らない。日中両国がどのように対処するかは国際的にも強い関心を持って見られており、おそらく米国も含めほとんどすべての国が「話し合いで解決する」ということ、つまり中国の言っていることに賛成するだろうからである。
要するに、中国は、実は、自国の立場が強くないことを承知の上で領有権を主張しており、また、第三国の反応をよく計算しながら行動しているのではないか。我慢比べの長期戦になり、また宣伝合戦も行なわれる中にあって、日本の立場は容易でない。ただ「尖閣諸島について領有権問題はない」ということを金科玉条とするだけでなく、柔軟に、かつ粘り強く対応していくことが必要であろう。