メディア掲載  グローバルエコノミー  2012.10.31

TPP論議に欠けているもの

共同通信社より配信

 貿易の自由化という場合、輸出産業の利益や、輸入品と競合する産業、わが国では農業の不利益が、それぞれ強調される。経団連は環太平洋連携協定(TPP)への参加に積極的である。他方で農協は公的医療保険が変更されると心配する日本医師会とともに、TPPへの大反対運動を展開している。

 野田佳彦首相は前向きだが、民主党内には批判的な意見が強い。自民党の安倍晋三総裁も聖域なき関税撤廃が求められるなら反対と言っている。反対運動は目的を達成したようだ。選挙を前にして、たとえ少数でも政治は組織化された団体票の意向を無視できない。

 TPPをめぐり対立しているのは、製造業と農業という生産者である。消費者のことは話題に上らない。しかし、貿易の利益は輸入・消費の利益である。貿易により外国から品質の良いもの、安いものを買うことができる。輸入である。その代価を払うためには輸出しなければならない。つまり輸出は輸入の手段であって目的ではない。生産も消費のためである。

 国際価格より高い国産農産物価格を維持するために、輸入農産物に高い関税を課している。消費税の1.6%に相当する、この4兆円程度に及ぶ消費者負担は所得の低い家計に負担を強いている。国民は知らないうちに5%に1.6%を加えた6.6%の消費税の負担をしているのである。 

 国産物のための消費者負担を財政による直接支払いに置き換え、価格を下げると輸入品への関税はいらなくなる。国産、輸入とも消費者負担は大きく減少する。直接支払いの所要額は、生産調整(減反)の廃止や戸別所得補償の組み替えで賄うことができる。リーマン・ショックや東日本大震災で職を失ったり、所得が減ったりした人たちには朗報ではないだろうか。