メディア掲載  グローバルエコノミー  2012.06.22

食料は戦略物資なのか

高知新聞(2012年5月16日)に掲載

 環太平洋連携協定(TPP)交渉と関連して、食料は戦略物資なので、国内農業を守るために農産物の関税を撤廃すべきではない、という主張がなされている。
 その例として、小麦などの国際価格が高騰した2008年、インドなどが穀物輸出を制限したことが挙げられる。自由貿易に任せると穀物は高い価格の国際市場に流れる結果、自国内の供給が減少して価格が上昇し、発展途上国の貧困な国民は経済的打撃を受ける。
 インドなどはこれを防ぐために防御的に輸出制限をしたもので、他国に戦略的打撃を与えようとしたのではない。しかも、これらの国は穀物の主要輸出国ではない。
 では、世界最大の農産物輸出国である米国が日本に食料を禁輸するだろうか。常識的に考えて、米国が同盟国である日本の存立を脅かす措置をとることは考えられない。
 そもそも食料を戦略物資として使えるのだろうか。米国は1973年短期間大豆の輸出を禁止したことがある。これは日本だけを対象としたものではなかったが、大豆、みそ、豆腐など食用に使う日本では、大変な騒ぎとなった。困った日本がブラジルの農地開発を援助した結果、ブラジルの大豆生産が急激に増加し、大豆輸出を独占してきた米国を脅かす大輸出国になってしまった。
 アフガニスタンに侵攻したソ連に対する80年の穀物禁輸は、ソ連に他の国からの調達を促し、米国はソ連市場を失った。あわてた米国は翌年禁輸を解除したが、深刻な農業不況を招く原因となった。これらから米国は食料を戦略物資にはできないと気付いたのである。
 他の原因で生じる食料危機に対処するために農業を保護すべきだとしても、消費者に負担を強いる関税以外の手段を検討すべきである。