コラム  外交・安全保障  2012.03.13

シリア問題とロシア・中国

 シリアの情勢はますます悪化しているようである。死者の数については5千数百人というのを比較的よく見かける(たとえば2月24日のAP電)。もっと大きな数字も伝えられているが、事の性質上正確な数字を把握することはそもそも困難であり、現時点では数千人と考えておくのが無難なところであろう。
 1年前は、リビアが現在のシリアとよく似た状況にあった。アラブの春とは言え、多数の市民が犠牲になる苦痛に満ちた道のりであり、国連や各国が事態の悪化を防止するため懸命に取り組んでいたことを昨日のことのように思い出す。
 しかし、シリアをめぐる現在の状況はリビアの場合と違っている面がある。国連安保理でさる2月4日、シリア政府に対して、市民への攻撃の中止、デモに参加して捕らわれた人たちの釈放、ホムスなどからの軍の撤退、平和的デモの自由の保障などを求めた決議案が提出され、全理事国15か国中13か国が賛成したが、ロシアおよび中国の反対で葬られてしまった。リビアの場合はこれよりもっと強い内容であったが決議は成立し、問題解決の基礎となった。
 人権・人道問題が理由で国連に介入することを促す決議案が、中ロ2国の反対で成立しなかったことは過去に何回かある。
 両国が反対する理由は、国際機関といえども主権国家の意思を無視して強制介入すべきでないということである。中国人には、欧米諸国も一昔前までは非人道的な行為を行っていたではないか、国家の発展段階にも配慮すべきだという気持ちがある。たまたま習近平国家副主席がこの決議案が審議されてから約10日後に訪米しており、米側から人権問題に中国が十分配慮するよう求めたのに対する習近平の受け答えにもそのような気持ちが表れていたように思う。
 今回のシリアの場合は、中国よりもロシアが前面に立って決議案を否決した。その背景にはシリアとの歴史的に緊密な関係がある。シリアがソ連寄りになったのは1956年のスエズ危機の際であり、英仏およびイスラエルがエジプトに侵攻し国有化を覆そうとしたのをソ連は強い姿勢で制止し、この時は米国がソ連に同調したこともあったが、これら3国の試みは完全な失敗に終わった。それ以来、エジプトおよびシリアとソ連との関係が緊密化し、シリアは地中海へ進出してくるソ連艦隊のために補給・修理基地を提供し(タルトゥス)、これに対しソ連はシリアにミサイルなどの武器供与や軍港整備のための協力など行ってきた。ソ連の核搭載艦船の寄港も可能になったそうである。このようなシリアとの関係はロシアになってからさらに進展し、現在シリアはロシアにとって世界で第7番目の武器輸出先となっている。シリアのロシア艦隊への協力は、トルコが欧州の外にあってNATOの防衛戦略の一角を担っているのと一脈通じるものがある。
 しかるに、もし国際社会が支援する民主化デモによりアサド政権が崩壊すれば、これまで長年にわたって築き上げてきたシリアとの友好関係も、同国におけるロシアの権益も大きく損なわれる恐れが大きい。このためにロシアは「外国が介入してではなく、シリアがみずから改革し、民主化要求にこたえていくことが重要である」と主張しているのである。
 安保理の決議案は成立しなかったが、ロ中を除く各国がこのまま引き下がらないことは確実である。2月24日にはチュニジアで「シリアの友人」グループの会議が開催され、具体的な対策は合意されなかったが、シリアにおける事態の悪化を食い止められないと、1999年のユーゴ(コソボ問題を含む)の場合のように、国連安保理の承認を得られないまま、NATO軍が攻撃に踏み切ることはありうる。
 NATOがそのような行動をとれないのは、現在、まだ事態が十分につまっていないのと、アルカイダとの関連など反政府勢力の実態に自信を持てないからであろう。
 ロ中両国はどこまで介入に反対を貫くか。ロシアのプーチンは今回の大統領選挙直前にNATOをけん制する論文を発表した。ラブロフ外相はシリアを訪問して事態の早期収拾を図るよう働きかけている。今後さらに、あらたな交渉をアサド大統領との間で行うことも考えられる。いずれにしても、シリアの問題をいかに収めるか、欧米諸国に対し「強制的な介入でない方法がある」と主張したロシアとして外交手腕を問われることになる。
 今次選挙でプーチンが大統領に返り咲くことになったが、2000年に初めて登場した時の勢いはなさそうである。このことが対外面にどのような影響を及ぼすか。一般論としては、国内基盤が弱いために対外的に強い姿勢をとることもあるが、西側諸国とアラブの多数の国がほぼ一致してシリア政府を批判している場合に、中国という味方がいるにせよ、対抗するのは容易でない。今回のケースはロシア新政権の実像を知る上でも注目される。