メディア掲載  グローバルエコノミー  2012.02.13

TPPと農業-外国産米が輸入されても日本のコメは負けない

エコノミストに掲載(臨時増刊2012年2月13日号)

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)反対論には米国に無理難題を押し付けられるという主張がある。しかし、多国間の協議では、個別の論点ごとに合従連衡が可能である。食の安全規制などでは、豪州、ニュージーランドと連携して米国に対抗できる。逆に、投資の保護や自由化、海賊版の取り締まり強化など日本がメリットを受ける分野では、米国と連携できる。
 唯一日本が交渉で孤立するとすれば、農産物の関税撤廃で例外扱いを要求するときである。ガット・ウルグアイラウンド交渉では、数量制限を関税に置き換える「例外なき関税化」が大問題だった。
 日本はコメの例外を認めさせる代償として、関税化すれば消費量の5%ですんだミニマムアクセス(低関税の輸入枠)を8%に拡大された。「例外なき関税撤廃」が求められるTPP交渉でも、政府は「コメだけでも例外を認めてほしい」と主張するのだろうが、それが認められたとしても厳しい代償が要求されるであろう。
 日本の農業は規模が小さいので競争できないという主張は、品質の差を無視している。香港でのコシヒカリの価格(キロ当たり)は、日本産380円、カリフォルニア産240円、中国産150円となっている。品質の劣るコメと日本米を比較することは、ベンツと軽自動車を比べるようなものである。
 日本に輸入されている中国米との内外価格差は縮小しているし、日本市場において中国米の価格は日本米より2~3割低い評価を受けている(図1)。

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 関税も即時撤廃ではなく、10年かけて段階的に撤廃することが認められている。コメの関税は60キロ当たり2万460円である。あられ・せんべい等の加工用に輸入されているタイ米3,660円(2008年)と比較しても、この10年間の日本米の価格低下のトレンドを考慮すると、価格が逆転するのは、参加後8年目以降である(図2)。

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 生産性向上による競争力強化に十分な時間があるし、仮に価格低下の影響が生じたとしても、低下分を直接支払いという補助金で補填すれば、影響は生じない。

減反政策を廃止すれば生産コスト低下
 1970年から導入された減反政策を廃止して価格を下げていけば、コストの高い零細な兼業農家は耕作を中止し、農地を貸し出して地代を得るようになる。そこで、一定規模以上の主業農家に直接支払いという補助金を交付し、地代支払い能力を高めれば、農地は主業農家に集まり、規模は拡大しコストは下がる。15ヘクタール以上の規模の農家のコストは米価の半分の約6,000円だ(図3)。

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 さらに、日本では生産量を抑制するための減反政策が単収の増加を阻害してきており、日本米とカリフォルニア米の単収に4割もの差がある(図4)。

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 しかし、減反政策を廃止し、品種改良を進め、カリフォルニア米並みの収量に増加すれば、コストは約4,300円へと低下する。これは中国からの輸入価格の半分以下だ。世界に冠たる品質の米が、価格競争力を持つようになれば、鬼に金棒だ。
 コメの生産量は94年の1200万トンから11年には840万トンへ30%も減少した。国内の市場は、高齢化と人口減少でさらに縮小する。日本農業を維持しようとすれば、輸出により海外市場を開拓せざるを得ない。そのためには農業界こそ貿易相手国の関税を撤廃し輸出をより容易にするTPPなどの貿易自由化交渉に積極的に対応すべきなのだ。関税撤廃の例外扱いは必要ない。守るべきは農業であって、関税という政策手段ではない。