メディア掲載 グローバルエコノミー 2012.01.27
1.今年経済で大きな政治問題となるのは、どのようなものでしょうか?
震災復興と並んで、TPPと財政再建、消費税引き上げが国政の重要なテーマとなると考えられます。震災復興については、復興の方法について、意見が分かれるかもしれませんが、これを行うべきではないという人たちはいません。
これに対して、TPP参加と消費税引き上げについては、参加するのかしないのか、上げるのか上げないのか、という是か非か、という根本的なところで、国民や政治家の意見が分かれています。しかも、国民、有権者にとって、不幸なことは、二大政党といわれる民主党にも自民党にも、消費税引き上げ、TPP参加について賛成の人、反対の人が存在するということです。
両党とも、大きな政策の下に意見を同じくする人たちが集まるという政党本来の形にはなっていません。二大政党制といいながら、有権者にとっては、どの政党に投票すればよいのか、政党の選択、政治の選択ができない状態なのです。かつて、党の公約は消費税導入だが、自分は反対だと主張して当選した自民党の国会議員の人がいましたが、そのような政治に後戻りしてしまいます。
2.具体的に、TPPについては、どういう状況ですか?
野田総理は、昨年11月「TPP交渉参加に向け、関係国と協議に入る」と表明しました。しかし、反対派は、これは事前協議を行うと言っているだけで、参加を決定したものではないと主張しています。最終的な取りまとめの過程で、どちらの顔も立てることができる玉虫色の文言調整が行われたからです。しかし、いずれ参加するのかしないのか決定しなければなりません。
自民党も、総選挙に追い込むことを最優先にしていますが、今総選挙になったとして、TPPに賛成するのか反対するのか党内の対立する意見をまとめるのは簡単ではありません。
3.消費税についてはどうですか?
消費税引き上げについて、野田総理は、実施時期について歩み寄りましたが、反対派を押し切りました。しかし、10人の離党者を出すなど党内の反対は強いものがあります。
自民党は2010年の参議院選挙で消費税引き上げを主張しました。その自民党が、民主党の消費税引き上げを公約違反として攻撃し、選挙で信を問うべきだと主張しています。では、自民党の注文通り、野田総理率いる民主党が消費税引き上げを公約に掲げ、総選挙に打って出たら、どうなるのでしょうか?二大政党とも選挙の最大のテーマとして消費税引き上げを公約に掲げることになるので、有権者は政策で政党を選択することは困難となります。
私は、TPP参加と消費税引き上げの問題は関連していると考えています。
4.この二つの問題が関連しているという理由は、どのようなものですか?
民主党を離党した人たちが結成した新党がTPP参加にも消費税引き上げのいずれにも反対しているように、この二つの問題について民主党内の反対派はほぼ重なっています。TPP参加と消費税引き上げでは、選挙に負けるという不安があるのだと思います。
消費税引き上げ反対の理由に、いわゆる「逆進性」があります。増税で食料品の価格が上昇すると、所得が低く食料品支出の割合が大きい家計に打撃を与えるというものです。他方、TPP反対の主たる根拠は、農産物関税がなくなると、農産物価格が低下して農業が打撃を受けるというものです。
しかし、これは一貫性がありません。農産物は食料品です。二つの問題の反対派は、消費税では食料品価格の引き上げに反対し、TPPでは引き下げに反対しているのです。
5%の消費税による税収は13兆円です。高い関税があることによって、国際価格よりも高い農産物価格で消費者に負担させている額は4兆円で、これを含めると実際に国民が負担している額は17兆円、消費税にすると6.6%となります。消費税を5%引き上げ10%としても、TPPに参加すると、食料品の価格は上がらないし、実質的な引き上げは10%と6.6%の差の3.4%に緩和されます。
消費者の立場に立てば、TPP参加賛成、消費税引き上げ反対が筋ですが、これだと財政再建が実現できません。公的な借金がGDPの2倍にもなり、さらに拡大しているという状況では、国債価格の低落によって金利が上がり、経済が相当悪化するというシナリオも否定できません。
消費税引き上げ反対の理由に景気への悪影響がありますが、景気が好転するまで待っていては、いつまでたっても財政再建はできませんし、景気がよくなっても、また増税は景気を悪化させるとして見送られてしまいます。他方、TPP参加は経済に好影響を与え、この悪影響を相殺してくれます。
財政破たんを回避し、経済を成長させながら、所得が低い消費者にも配慮するという観点に立てば、消費税を引き上げとTPP参加が必要だと考えられます。農家への補償は、戸別所得補償など現在の農業予算の見直しで十分対応できます。追加的な財源は必要ありません。つけを後の世代に先送りする政策からの脱却が必要だと思います。