メディア掲載  グローバルエコノミー  2012.01.10

TPP参加「農業こそ積極的対応を」

新潟日報(2011年12月24日付「時代を読む」)に掲載

 日本に続き、カナダ、メキシコも環太平洋連携協定(TPP)参加を表明した。日本の参加でTPP地域が拡大すれば、参加するメリットが増加する一方で、これから排除されてしまう不参加のデメリットが増加するからだ。被災地の中小企業の自動車部品は米国にまで輸出されている。しかし、TPPに参加しなければ、被災地も含め日本の中小企業は広いアジア太平洋地域の生産システムから排除されてしまう。わずかな農地しか持たず、兼業収入に依存せざるを得ない被災地の農家にとっても、製造業の復興は最優先の課題である。TPP不参加はこれを困難にする。

 農業のためにも自由貿易は必要だ。コメの生産は1994年には1200万トンだった。それから20年もたたないのに2012年の生産目標は800万トンを切った。農業生産力が縮小したのではなく、国内消費が減少したためだ。今後は人口が減少し、消費はもっと減る。農業を維持しようとすると、輸出により海外市場を開拓せざるを得ない。農業界こそ相手国の関税を撤廃し輸出をより容易にするTPPなどの貿易自由化交渉に積極的に対応すべきなのだ。

 減反を廃止すれば、価格は下がる。抑制されてきた収量も増加する。さらに、主業農家に直接支払いという補助金を交付すれば、農地は零細兼業農家から主業農家に集まり、規模は拡大する。15ヘクタール以上規模の農家がカリフォルニア並みの収量となれば、コストは1キロ当たり70円へと低下する。これは、現在中国や米国から輸入しているコメの価格150円の半分以下である。香港では、同じコシヒカリでも、日本産は米国産の1.6倍、中国産の2.5倍の価格で取引されている。高品質の日本米に価格競争力がつけば、鬼に金棒だ。

 TPPに入ると米国に一方的に譲歩させられるという主張がある。しかし、過去の日米二国間の協議と異なり、多国間の協議では、仲間作りが可能である。医療や食の安全では、同じような利益や制度を持つ豪州などと連携して米国に対抗できる。逆に、投資の保護や自由化、海賊版の取り締まり強化、工業製品の関税撤廃など、日本が勝ち取りたい分野では、米国と連携できる。

 日本が孤立するとすれば、農業について関税撤廃の例外を要求するときだけだ。しかし、関税ではなく直接支払いで保護するという米国と同様な政策に転換すれば、農業についても孤立することはない。ベトナムやマレーシアのような途上国でさえ、工業製品の関税撤廃、国営企業やマレー系優遇策の見直しという大きな犠牲を覚悟したうえで、TPP交渉に参加し、米国と渡り合っている。韓国は米国と自由貿易協定を結んだ。アジアのリーダーを自認する日本が、起きもしないような問題を心配して、米国が怖いからTPP交渉に参加しないと言えば、彼らはどのような目で見るのだろうか。

 日本農業にとって有望な市場は中国である。日中韓の自由貿易協定交渉が開始されるが、これで中国のコメ関税をゼロにしても、十分な輸出はできない。日本のスーパーでは1キロ当たり500円の日本米が、上海では1300円と高く販売されている。中国では、国営企業が流通を支配し、独占的な価格付けをしているからだ。これは国営企業が徴収する事実上の関税である。

 米国はTPPで高いレベルの貿易や投資のルールを作り、いずれ中国がTPPに参加する場合に規律を加えようとしている。中でも重視しているのは国営企業に対する規律であり、国営企業を抱える社会主義国家ベトナムを仮想中国と見立てて交渉している。コメを自由に中国に輸出できるようにするには、国営企業の行動を改めさせるよう、TPP交渉に参加して米国と共同して作業すべきである。

 TPP交渉は相当進んでいる。交渉に参加しなければ、日本の利益や主張をTPPの貿易や投資のルールに反映できないし、不都合な部分を修正できない。既に米国では、日本が参加するまでに交渉を妥結し、日本にその内容を丸のみさせようという意見も出ている。TPPに参加することを逡巡(しゅんじゅん)している時ではない。参加、不参加のいずれかの道しかない。野田総理はあいまいな態度を改め、旗色を鮮明にしたうえで、わが国の早急な交渉参加が実現するよう、アメリカ政府・議会に強く働きかけるべきである。