コラム 外交・安全保障 2011.12.27
中国の資源外交はますます活発である。急増するエネルギー需要をまかなうためであるが、中国ではエネルギー効率がまだ低水準にあるため、消費量(石油換算)だけで比較するとすでに米国を凌駕して世界第一位となっており、エネルギー効率の高い日本と比べると5倍にも達している。このような中国のエネルギー消費は今後も大幅に増大していく見込みであり、日本の10倍に達するのもそう遠い将来のことでないかもしれない。
エネルギー需要の7割は石炭でまかなわれており、これは基本的に自給している。石油や天然ガスは石炭に比べると依存度は現在のところまだ低いが、その消費量はいずれも急増している。石油はかつて輸出していたが今や大口の輸入国となっており、30年後には消費の8~9割程度を輸入に頼ることになるという見通しである。中国がその獲得に懸命になるのも無理はない。
また、輸入だけでは足りず、中国は巨額の投資も行っている。具体的には、油田や石油企業を買収するだけでなく、辺鄙な場所、あるいは海上などで新規に油田を開発することも少なくない。その関連で道路、橋、港湾さらには通信設備や労働者の住宅など必要なインフラも建設する。
中国の資源外交がとくに目立っているのはアフリカと中央アジアであるが、後者では開発した石油を中国へ輸送するためパイプラインを建設している。たとえば、カザフスタンの石油を運ぶため、中国は2006年からパイプラインの建設を開始し、第1期も第2期も工事は完成し稼動している。この建設速度が驚くべき速さであり、中国とカスピ海がパイプラインでつながる日も近いそうである。
中国政府は、世界で競争できる企業を育てるという戦略の下に1998年から石油関連企業を再編成し、中国石油集団(CNPC)や石油加工集団(SINOPEC)を、わずか十年余りの短期間に、世界のトップレベルにまで急成長させた。中国はこの他に中国海洋石油(CNOOC)を持っており、これら3社の国有企業の取扱量を合わせると世界第2位になるそうである。
石油企業が巨大化するのは積極的な資源外交そのものと言えるが、インフラ関連の工事を請け負うのも多くの場合中国企業であり、これも当然急成長する。現在、世界のトップコントラクター225社の中に中国企業はすでに54社入っており、アフリカにおける売上高を国別で見れば中国はダントツの第1位で、そのシェアはなんと42.4%となっている。英、仏、伊などかつての宗主国に米国を加えてやっと中国に肩を並べる程度なのである。
このコントラクターが雇用する労働者は現地人もいるが中国人の比率が非常に高く、どの国でも万の台の中国人が働いている。一部には、そのような大量の中国人労働者は現地の労働市場を圧迫しているという批判もあるが、そもそもアフリカ諸国の人口密度は希薄であり、また、労働者の能力と適正の問題もあるため中国による大量の投資に見合う労働力は簡単に得られないらしい。
また、工事現場だけでなく、街中でも中国人のプレゼンスが目立ってきており、たとえば、中華料理店だけでなくガソリンスタンドなどでも中国人店員が働いている。空港で運転手をしている中国人もおり、日本人が見ればこれはいったいどこの国だと一瞬錯覚に陥るようなことがあるそうである。
輸入、投資、企業、労働者などが急増しているだけではない。さらに注目すべきは、これらすべてが中国の統一した戦略の下に進められていることである。中国の首脳がアフリカ諸国を訪問して、「エネルギー、通信、インフラ、貿易、投資などの諸分野で協力を推進する」という包括的な合意を結ぶのはその象徴であり、中国の首脳はいわば資源外交オーケストラの指揮者である。
中国としては、13億人の生活水準を大幅に上昇させるために強力な戦略を実行するのは当然であろうが、経済成長があまりにも急速であること、中国市場の開放度は諸外国に比べ非常に低いこと、さらには一党独裁の国家事業としての性格が強いことなどから、自由な市場活動を歪曲、あるいは悪用しているという反発が上がってくるのは避けがたい。米国議会ではすでに問題になっており、中国の資源外交とそれを実行する国有企業は、人民元の為替レートなどと同様中国にとってまことに厄介な問題となる恐れがある。
中国の発展はいろんな意味で国際社会がかつて経験したことがないことであり、どうしても副作用が生じてくるかもしれないが、なんとしてでもそれを抑え、両者が協調できる道をクリエイティブに編み出していかなければならない。