メディア掲載 グローバルエコノミー 2011.12.07
野田佳彦首相が、環太平洋連携協定(TPP)の交渉に参加することを決断した。日本の交渉力が心配だとする慎重派の主張があった。しかし、米国に押された日米2国間の協議と異なり、多国間の協議では、個別の分野や論点ごとに合従連携が可能となる。
薬価、食の安全規制、遺伝子組み換え食品の表示問題では、オーストラリア、ニュージーランドと連携して米国に対抗できる。逆に投資、海賊版、政府調達、工業品の関税では、米国と連携して途上国に規制撤廃、取り締まり強化、市場開放を迫ることができる。
今回慎重派から提起された、公的医療保険や地方の公共事業の開放などは、そもそも提起されないか、されても容易に撃退できるものばかりだ。
日本の最大の弱点は、農業である。米国をはじめ各国が農産物の関税撤廃を求めてくるはずだ。たぶん日本政府は大幅な例外品目を要求し、最後は「せめてコメだけでも例外を」と主張するのだろう。
しかし、これが守るべきものなのか。1993年末に合意したウルグアイ・ラウンドでは、数量制限などを関税に置き換えるという「例外なき関税化」が大問題だった。
日本はコメを例外にしてもらう代償として、関税化すれば消費量の5%ですんだミニマムアクセス(最低輸入量)で8%を受け入れた。「例外なき関税撤廃」が要求される今回も、コメの例外扱いと輸入枠の拡大で決着するのだろうか。
そうなればコメ生産は縮小する。減反を廃止して米価を下げ、直接支払いという補助金を主業農家に払えば、規模拡大、収量の向上によるコストダウンによって、関税も要らなくなり、輸出も可能となる。守るべきは農業であって、関税という手段ではない。