メディア掲載  グローバルエコノミー  2011.12.01

おかしなTPP国会論戦

WEBRONZA に掲載(2011年11月16日付)

 野田首相がオバマ大統領との会見で「すべての物品やサービスを貿易自由化の交渉テーブルにのせる」と発言したかしないかで、国会で問題となっている。この問題で、自民党は集中審議や特別委員会設置を求める考えだという。(11月16日朝日新聞4面)自民党としては、これを大きな争点とし、早期解散に追い込みたい考えだろう。

 しかし、私には、何が問題なのかさっぱりわからない。例外を設けるかどうかについても、それはテーブルに出して交渉した結果である。ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉で、コメを全ての非関税障壁を関税に置き換えるという関税化の例外にしたが、長時間かけて交渉した結果、やっと例外となったのである。コメは最初からテーブルに出されなかったのではない。通商交渉の経験のある江田憲司みんなの党幹事長が「すべての品目・サービスをテーブルに出し、どう料理するかが交渉」だと発言しているのは、当然である。テーブルに出さなければ、例外も取れないのだ。

 「すべての物品やサービスを貿易自由化の交渉テーブルにのせる」ことは、例外を認めないということではない。物品の関税撤廃については、オーストラリアやニュージーランドは完全撤廃を求めるかもしれないが、アメリカはオーストラリアに対しては砂糖の関税、ニュージーランドに対しては乳製品の関税を維持したい意向である。(ただし、他の国に対しては、砂糖、乳製品の関税は撤廃するので、完全な例外ではない。)しかし、これが交渉の対象となることは、アメリカも当然視しているはずだ。

 今回参加表明したカナダも乳製品と鶏肉の例外要求をしてくるだろう。これらの品目はフランス語圏のケベック州でたくさん生産されており、この取り扱いを間違えるとカナダの憲法問題、つまりケベック州の分離・独立に発展しかねないからだ。ウルグァイ・ラウンド交渉の時もカナダは最後まで関税化の例外を主張していた。NAFTA(北米自由貿易協定)では、これらの品目は例外とされている。しかし、カナダが最初からこれらの品目が交渉の対象ではないとは、言うはずもない。

 サービスについては、そもそも例外があることが前提の交渉である。ネガティブ・リストというのは、どのサービスを自由化の例外にするかというリストである。これはテーブルに出して交渉した結果、決定される。サービス交渉とは、国ごとにどのサービスを例外とするかしないかの交渉であると言ってよい。

 「すべての物品やサービスを貿易自由化の交渉テーブルにのせる」のは、通商交渉の常識である。自民党は民主党の外交能力を問題視していたが、今回の論戦で図らずも自らの外交能力のなさを露呈してしまったように思われる。また、仮に解散・総選挙に追い込んだとしても、党内に賛否両論を抱える自民党が、TPPに対する意見をはっきりできるのだろうか。「TPPについては、慎重に検討する」というマニフェストでは選挙に勝てないだろう。