メディア掲載 グローバルエコノミー 2011.10.07
1.まず震災の津波により被害を受けた農地の復旧状況を説明してください。
津波で流されたり、塩水につかるなどの被害を受けた農地は、約2万4千ヘクタールです。これ自体は、日本の全農地面積459万ヘクタールに比べると大きなものではないといえるかもしれません。しかし、被害農地の多くは、平野部の優良農地で、被害は地域的に集中しています。宮城県太平洋岸地域の市町村平均では42%の農地が被害を受けています。
これらの農地には、がれきが残ったり、塩分濃度が高くなったりしています。さらに、水田に水を引いたり、排水したりする施設も大きな被害を受けています。排水施設が壊れているので、塩を抜こうとしても、水を流せません。今回の震災で大きな被害を受けた農地の機能を回復するためには、がれきの除去、水路、パイプラインの補修、海水につかった農地から塩を除くことなどの対策に、相当の費用と時間がかかると思います。
このため、津波による被害を受けた農家のうち、これまで一部でも営農を再開した農家は、宮城県22%、岩手県11%、にとどまっています。
2.政府の対応はどうでしょうか?
政府は、2万4千ヘクタールの被災農地を3年で復旧することとし、そのうち6割で来年中の営農を再開するという目標を立てています。具体的には、農家に「地域農業復興組合」という共同組織を作ってもらい、がれきの除去、農地や水路の補修など復旧を共同で行う場合、水田作物で10アール当たり3万5千円、露地野菜で4万円を交付することとしています。 これによって、津波で被災した農地の1万5千ヘクタールが復旧すると見込まれています。
津波で被害を受けた農地については、その多くは畔(あぜ)もなくなっているので、元あった農地の形状を復元することは難しいし、高齢な農業者が、新たに機械を購入して、営農を再開することも、困難だと思います。
しかし、非効率だった農業を効率的な農業に新生させることも可能となります。田んぼの効率性は四隅の数で決まります。同じ3ヘクタールの規模の農家でも、0.3ヘクタールの農地を10筆持っている農家と3ヘクタールの農地を1筆持っている農家とでは、後者の方が、機械作業が簡単となるので、少ない労働時間ではるかに効率よく生産できます。現在農地整備は0.3ヘクタール区画を標準に行われていますが、農地をまとめ、1ヘクタールの大規模区画にすることを政府は検討しています。
また、農地を一か所にまとめたりするためには、土地利用計画を策定することが必要となりますが、農業振興地域の整備に関する法律、都市計画法など、そのために必要な法手続きを一括して迅速に処理することとしています。
3.放射能による農地汚染については、どうでしょうか?
農林水産省は、放射性セシウムが土壌1キログラムあたり5,000ベクレルを超える福島県内の農地8,300ヘクタールについて汚染を除くとしています。
セシウムは表面に近い土に集中しているので、それを除けば、大幅に濃度は低下します。実証試験の結果、①表土4cmの削り取りで75%、②マグネシウム固化剤を使用した表土3cmの削り取りで82%、③牧草や草ごと表土3cmの削り取りで97%、それぞれ土壌中のセシウムが低減することが分かりました。これに対して、それ以外の方法は効果的ではありませんでした。ひまわりを栽培してセシウムを吸収するという方法については、土壌中のセシウム量を2,000分の1 しか減少できませんでした。
しかし、1ヘクタールの表土を1cm削ると100トンの土壌が出てきます。8,300ヘクタールの農地の土壌を4cm削ると300万トン以上の土壌の処理が必要となります。これには大変なコストと場所がかかります。国有林地を活用することも検討されているという報道もあります。廃棄する土壌を少なくするために、土壌からセシウムだけを分離してとり出して処分する方法も実験されましたが、今わかっている方法では、36%しかセシウムを減少できませんでした。
4.これをどのように評価すればよいでしょうか?
作物を生産するためには、土壌に、植物が水を吸収できるような保水性と植物が呼吸できるような通気性という相矛盾した機能が要求されます。閉まっていると同時に空いていないとだめなのです。このような構造を持つ土壌は表面から30㎝程度の深さ以内のものに限られており、このような構造を持たない土壌では植物は生育できません。これを「表土」といいます。これを作るためには有機物と土壌微生物が必要です。1㎝の表土ができるのに200~300年かかります。4cmの表土を削るということは自然が千年間かけて作り上げた貴重な資源をいっぺんに失ったということです。もう二度と今回のような事故を起こしてはならないと思います。