メディア掲載  グローバルエコノミー  2011.09.09

代表候補鹿野道彦農相の通信簿

WEBRONZA に掲載(2011年8月25日付)

 民主党の代表選が29日に行われる予定だ。ここにきて候補者が続出しているが、水面下では候補者の一本化を進める動きもあるとされ、予断を許さない情勢となっている。その中で、鹿野道彦農相が意外に健闘している。来年9月にまた代表選があるので、そのつなぎの総理・代表候補者として、党内の支持が得られるというのである。政治経験も豊富で、人柄も誠実なうえ、菅、小沢と等距離になる中間派というのも有利だ。

 鹿野農相は農業界では評判がよい。農林水産省、農協は、彼らの利益を代弁してくれる人として、総理になるのではないかという、期待を込めた見通しを持っている。彼らが鹿野農相に通信簿を渡すとすれば、5段階評価で5だろう。鹿野農相の1年間の実績を検証してみよう。

 第一に、米の政府買入れによる米価維持である。民主党政権になってから、農協の度重なる要請にもかかわらず、赤松、山田の2大臣は米の政府買入れを拒否してきた。民主党の戸別所得補償は、実際の米価が下がっても農家への保証価格との差は必ず補てんするというものだから、農家にとっては米価が低下しても影響はない。しかし、米価に応じて販売手数料が決まる農協にとっては、経営上問題となる。これこそ、小沢一郎氏や彼に近い赤松、山田両大臣の狙いだった。戸別所得補償で農家と農協の間に楔を打ち込み、自民党と二人三脚で発展してきた農協の力をそごうとしたのだ。小沢氏は、農協に補助金を与えて農民票を組織させるというやり方に代え、戸別所得補償で農家票を直接捕まえようとした。しかし、鹿野農相は2010年12月、米市場からの政府買い入れ18万トンを含め、30万トン以上の米を市場から隔離するという米価維持政策を決定した。

 第二に、米の先物取引の導入である。先物市場が認められると、現物操作による米価維持が困難となる農協にとっては、打撃である。このため、自民党時代の2005年には、農協の反対により、商品取引所からの先物市場の認可申請は拒否された。しかし、商品取引所を活性化させ、天下り先を確保したい農林水産省にとっては、10年越しの悲願がかなえられたのだった。

 第三に、新規農協設立のための農協法改正の拒否である。農協法制定当初は農協の設立は自由だった。しかし、現在の農協法には、生産者が農協を設立しようとすると、県のJA農協中央会と事前に協議しなければならないという規定が設けられている。JA農協がライバル農協の誕生にゴーサインを出すわけがない。実際に、米の専門農協を作ろうとして、JA農協に反対されて設立できなかった例がある。生協法にはこのような規定はない。自由設立主義という協同組合の基本理念に反するからだ。政務官レベルでの折衝が行われた結果、農林水産省もこの規定の削除を認めざるを得なくなった。これを2010年度中に措置することを盛り込んだ制度・規制改革の対処方針が閣議決定された。しかし、鹿野農相はとうとう国会に農協法の改正法案を提出しなかった。閣議決定をJA農協のために無視したのである。

 最後に、TPP交渉への否定的な態度である。関税がなくなって農産物価格が下がっても、直接支払いという補助金を交付すれば、農家は困らない。しかし、価格が下がると農協の販売手数料は減少する。東日本大震災で影響を受けている農家にさらに打撃を与えることは好ましくないという理由をつけて、先送りを決めさせた。鹿野農相が代表になると、次の一年間はTPP交渉への参加は見送られることになろう。

 農林水産省、農協の期待を集める代表候補である。