コラム 外交・安全保障 2011.08.01
米国と中国の間に不協和音があるようだ。オバマ大統領がホワイトハウスでチベット仏教最高指導者のダライ・ラマと会談したときにはちょっと火花が飛んだ。
南シナ海では、中国と一部ASEAN諸国の間でふたたび事件が発生し、緊張を緩和するため外相会談が開かれた。米国は当事国でなくその場にいなかったが強い影響力を及ぼしており、中国は煙たがって、問題は当事国間で解決を図るべきだと主張したと伝えられている。
ビン・ラディンの殺害後パキスタンと米国との関係はギクシャクしているが、パキスタンは中国に海軍基地を建設してもらっている。米国としては心穏やかでないだろう。
7月9日にスーダンから独立した南スーダンでは、米中両国が競ってその建国に協力するという形になっているが、両国の外交方針、価値観はあまりにも異なっており、このままではすみそうにない。
南スーダンが独立したのは長く続いた内戦の結果であるが、その間多数の住民が殺害され、スーダンのバシル大統領は各国から厳しく責任を問われていた。しかし、中国はスーダンとつねに緊密な関係を保っていたので、国際社会からスーダンの人権蹂躙を止めさせるよう期待され、また、その期待に応じないとして批判されたこともあった。NGOアムネスティ・インターナショナルは中国が間接的にダルフールでの住民虐殺に手を貸していると糾弾し、米国内ではスピルバーグ監督など有名人が北京オリンピックのボイコットを呼びかけたりしたこともあった。ニューヨーク・タイムズ紙に「中国とスーダン 血と油」という刺激的な標題の評論記事が載ったこともある。ごく最近、国際刑事裁判所で起訴されているバシル大統領の訪問を受け入れたときには中国に対する批判が一段と強まった。
中国は高い経済成長を維持するために大量の石油を海外から輸入している。貿易や投資などにおいて破格の条件をオファーするのもその一環であり、また、援助においても相手国に要求する条件は「一つの中国」にコミットすることだけだと言われている。そのような戦略的アプローチは功を奏し、短期間にスーダンなどアフリカの新興産油国と友好関係を築き上げ石油をしっかり供給してもらっている。
中国が各国の厳しい目をものともせずスーダンと緊密な関係を続けるのは、このような事情があるからであるが、中国の企業は石油の開発、生産などにも深く関与し、現地企業の株式を大量に取得し支配権を手中に収めることもある。また、中国は武器も売り込み、ちゃっかり儲けている。
今回の南スーダン独立で石油をめぐる状況は複雑化した。油田は南に集中しておりスーダン石油の約8割は南スーダンで生産されているが、その大部分は北部のパイプラインを経由して輸出されている。この油田と石油関連のインフラは旧スーダン時代から建設されてきたものであり、当然北部は巨大な権益をもっている。南スーダン独立の際に南北で権益をどのように分けるか決定されればよかったが、それはできず、現在も交渉中である。
中国は今後南スーダンとの関係においても北部に対するのと同様の方針で臨み、やはり中国の特色が随所に出てくるであろう。南スーダンの首都ジュバには本国から連れてきた中国人があふれているそうである。
一方、米国は、南スーダンは北部と異なる状況にあるので積極的に国家建設を支援する姿勢を見せている。油田の開発はもともと米国企業の協力の下で進められたものであり、南スーダンには米企業に戻ってきてほしいという期待もあるらしい。この点でも将来中国との利害関係の違いが問題となる可能性があるが、そもそも国家建設に関する米国の考え方・アプローチは中国と大きく異なっており、米国は、持続的成長のため産業の多角化・農業振興などを重視し、石油への過度の依存には批判的である。これは世銀などの考えに近い。米国としては、南スーダン政府に対して耳の痛いことを言わざるをえなくなることも当然出てくるであろう。
南スーダンにおいて米中間にどのような問題が発生してくるか、たんに想像をたくましくするだけではあまり意味がないどころか、失礼にもなるだろうが、世界で有数の両大国が、建国されたばかりで人口は1千万人に満たない小国の建設にまったく異なる外交方針をもって積極的に関わろうとしているだけに、この違いがどのような問題となって表面化してくるか、また、その場合に両国はどのように対応するか。いわゆるG2の実態を知る上でも注目される。