メディア掲載 グローバルエコノミー 2011.06.15
1.東日本大震災復興構想会議は、復興の青写真として今月末に出される第1次提言の骨子案が報道されていますが、これをどう評価されますか?
今回の被害を二度と起こさないよう、土地利用のあり方を考え直すことが必要です。当面の対策として雨露をしのぐ仮設住宅の建設も重要ですが、拙速に復旧するだけでは、再度の大被害を免れることはできません。そのためには、しっかりとした土地利用計画を作って、復興に当たることが必要です。骨子案で、都市計画法や農業振興地域整備法などの手続きを一本化し、迅速な土地利用再編の仕組みを検討するとしていることは正しい方向だと思います。
2.どのような土地利用計画が望ましいのでしょうか?
コンパクトシティという考え方があります。これは、歩いてゆける範囲の中心市街地に医療、教育、商店、住宅など生活に必要な諸機能を集中的に配備し、住みやすい街づくりを目指そうとするものです。これによってお年寄りも身近な病院で診察を受けることができます。さらに、自動車の利用を抑制し、地球温暖化ガスの排出抑制にも貢献できます。すでに、青森市や富山市などでは、このような考え方が街づくりに採用されています。
今回の震災についても、このような都市作りを行い、住宅地は津波の心配のないところに一か所にまとめ、海岸と住居地との間に、まとまった規模の広い農業用地を作れば、災害対応にも食料安全保障にも美しい農村景観にも、貢献できます。水産施設についても、小規模な漁港を中核となる漁港に集約し、そこに加工、流通、関連産業が集中するコンパクトな水産地域作りを目指すべきです。このためには、しっかりとした土地利用計画が必要です。
3.過去に参考となる事例はありますか?
同じく震災からの復興という連想から、関東大震災における後藤新平の活躍がよく引き合いに出されます。しかし、我が国の主要都市全てが焼け野原となった第二次世界大戦の戦災から、これらの都市がどのように復興したのかを都市間で比較すると、具体的な復興に当たっての有益な示唆が得られるとおもいます。
都市計画を担当していた内務省では、終戦前から、戦災による壊滅的被害を都市計画実現の好機ととらえ、戦災復興都市計画の立案を開始しており、終戦後間髪を入れず、戦災地復興計画基本方針を主要都府県に内示しました。しかも、中央から地方の中核都市へ職員を派遣して、都市計画を策定させました。
東京には、幅100メートルの幹線道路を8本も建設するという、雄大な戦災復興計画がありました。しかし、これを実行に移すことをためらっている間に、バラック(仮設住宅)が建てられてしまい、大規模な復興を行うことはできませんでした。
これに対して、名古屋市は、戦災によって、路の狭い古いまちのままだった名古屋の中心部が破壊されたことを機会に、約280の寺とその墓地を一か所に強制的に移転するなどの荒療治を行いながら、2本の100メートル幹線道路を整備するなど、整然とした町並みを持つ大幅な都市改造を行いました。このとき、名古屋市長は強力なリーダーシィプを発揮し、終戦後直ちに元内務省の技術者を名古屋市技監に任命して、建設行政全てを委ねるとともに、迅速かつ積極的に復興を行いました。
4.これを参考にして、何をすべきでしょうか?
震災後3カ月が経過したにもかかわらず、国の復興計画が遅れているだけではなく、地域においても、土地利用計画の策定はあまり進んでいないと聞いています。これは市町村の職員の数が震災によって減少している上、残った職員も震災後の応急的な処理に忙殺されているところが多いからだと思われます。終戦後内務省が行ったように、国土交通省、農林水産省などから職員を数名市町村に常駐派遣し、速やかに土地利用計画の素案を作らせたうえで、市町村長がこれに地元住民の意見を反映させながら、最終的な計画を決定すべきだと思います。国が用意する事業は、道路整備、農地の除塩や区画整理などの農地基盤整備、漁港整備などメニューは予想されます。計画を立てたのちに、国に必要な予算を要求すればよいのです。とにかく一日も早い土地利用計画の作成が望まれます。