メディア掲載  グローバルエコノミー  2011.05.12

震災を理由にTPP議論を先送りしてはならない

金融財政事情(2011年5月2日号掲載)

農協に期待される米価圧力団体から地域相互扶助センターへの脱皮

 東日本大震災によって、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加問題が棚上げされているが、災害復興を理由に議論から逃げることは許されない。野菜や果物の関税は低い水準にあり、また、米を含め内外価格差は縮小しており、農家への直接支払いを行えば、TPPに加入しても日本の農業は大きな影響を受けない。まずは被災地の農業復興を新たな構造政策のもとで進めて、これを全国に広げていき、農協からは農業関連事業を分離させて、地域協同組合として再生を図ることを検討すべきである。

関税撤廃で影響は生じるのか
 東日本大震災は、食料の重要性をあらためてわれわれに教えてくれた。被災地から遠く離れた東京でも、一部の消費者は食料を買い占めた。他の物資と異なり、食料は人間の生命・身体の維持に不可欠なものであり、わずかの不足でも人々がパニックになるのは1993年の平成の米騒動でも経験したところである。
 国民に食料を安定的に供給することは、農業の重要な役割である。そのためには十分な収益をあげられる持続可能な産業でなければならない。農商務省に入り、後に民俗学者となった柳田國男は、「農をもって安全にしてかつ快活なる一職業となすことは、目下の急務にしてさらに帝国の基礎を強固にするの道なり」と主張した。しかし、現実の農業は、零細農家が多く、農業収益の低下により衰退の一途をたどっており、農協はTPPに加入すると、日本の非効率な農業は壊滅すると主張している。
 TPPに参加しても、産出額では米を上回る野菜や果物の関税はすでに相当低い水準にあり、影響を受けない。最も影響を受けるといわれている米でさえ、この10年間の国内価格の低下と外国産米の価格上昇によって価格差は大幅に縮小した(図表1)。2010年度には関税ゼロの輸入枠の消化率が大幅に低下するなど、関税なしでも国産米が外国産米に勝っている状況にある。
 93年に輸入されたタイ米が大量に売れ残ったように、ジャポニカ米とタイ米のようなインディカ米とでは消費者の評価に大きな差がある。同じジャポニカ米のなかでも、さらには同じコシヒカリという品種であっても、日本市場やアジア市場において最高ランクの日本米とカリフォルニア産米、中国産米とでは大きな価格差がある。国内でも、魚沼産コシヒカリと他県産コシヒカリとで1・7倍もの価格差があるのと同様である。香港では、商社の卸売価格は、キログラム当り日本産コシヒカリ380円、カリフォルニア産コシヒカリ240円、中国産コシヒカリ150円、中国産一般ジャポニカ米100円となっている。品質がまったく異なる米の価格を比較して、日本米は壊滅すると主張するのは誤りである。 ・・・・

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