メディア掲載  グローバルエコノミー  2011.04.13

自由貿易が日本農業を救う -「TPPで農業は壊滅」しない-

農業と経済(2011年5月臨時増刊号掲載)

 農業問題は、WTO交渉にせよFTA交渉にせよ我が国が貿易自由化を推進する際に常に障害となる。TPPへの参加をめぐり、農業界は農業が壊滅すると強硬に反対している。

1.米に影響が出るとしても加入後7~8年目以降
  まず、米、乳製品等については高い関税が存在するが、米を上回る生産規模を持つ野菜・果実の関税は低く、これらは関税を撤廃されても影響を受けない。米の関税はキログラム当たり341円、60キログラム(1俵)当たりでは、2万460円となる。この関税では、価格ゼロで輸入されたとしても、輸入米は1万4000円程度の国産米価格を大きく上回るので、輸入されない。関税を撤廃しても10年間の段階的な引下げ期間が認められるので、5年後でも1万230円である。タイ米の輸出時点での価格(輸送費、保険料等を含まない)は約3000円なので、5年後の関税でも輸送費や品質格差を考慮すると、日本に輸出できない。この10年間で3割も国内米価が低下したことや今後の国際価格の上昇見込みを考えると、影響が出たとしても7~8年後だろう。競争力を強化するのに、十分な時間がある。

2.我が国農業保護の特徴
 農業問題が貿易交渉で常に問題となるのは、我が国の特異な農業保護のやり方に原因がある。OECDが算定している農業保護(PSE)は、政府が農家に補助金を交付する「財政負担」の部分と、消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家を保護している「消費者負担」(内外価格差に生産量を乗じたもの)の部分の合計である。2006年では、米国が293億ドル、EUは1380億ドル、日本は407億ドル(約4.5兆円)であり、このうち「消費者負担」の部分は、アメリカ17%、EU45%、日本88%(約4.0兆円)である。つまり日本の農業保護はほとんど消費者負担だという特徴があり、国際価格よりも高い国内価格を維持するために多くの品目で200%を超える高関税(米は従価税換算で778%)を設定している。これに対し、米国やEUは価格ではなく直接支払いという補助金で農家を保護しているために高い関税は必要ない。
 日本の平均関税率は12%であり、韓国62%やEUよりも低く、農産物についてはすでに解放された国であるという主張がある。しかし、この平均関税率の計算には、米等の高関税品目は含まれていない。100%以上の関税のタリフライン(品目)は169品目で、全農産物のタリフライン1332の12.7%を占めている。
 農業生産額に占める財政負担の割合は米国の65%に比べて日本は27%と少ないから日本の農業保護は少ないという主張もある。しかし、これは日本の保護が財政ではなく価格によるものだという特徴を無視している。農家受取額に占める消費者負担も含めた農業保護の割合は、米国15%、EU33%に対し日本は55%(OECD)である。さらに、米国農務省の予算の7割は低所得者層向けのフード・スタンプである。もし、これを計上しているのであれば、財政負担についても農業についての米国の数値は2割を切り、日本より少なくなる。 ・・・・

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