メディア掲載  グローバルエコノミー  2011.04.07

「震災後の計画的な復興を」

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2011年3月22日放送原稿)

 まず、信じ難い規模の震災によって、尊い命を落とされた方々に、心より哀悼の意を表したいと思います。また、かろうじて九死に一生を得た方々も、最愛の方を亡くされたり、住む家をなくされたり、心が張り裂かれんばかりの深い心痛を受けられているはずです。自動車だけではなく、家屋さえも押し流され、ぶつかり合って破壊され、津波が引いた後には瓦礫の山しか残らない悲惨さは、筆舌に尽くしがたいものがあります。
 現在救援物資が届かないという報道があります。当面は、被害に遭われた方に、水、食料、ガソリン、毛布などの支援がとどこらないよう、政府は全力を尽くす必要があります。救援物資についても、まずは食料という声を耳にしました。食料は人の生命・身体の維持に欠かせないものです。世界の食料価格が高騰しても、日本人が食料を買えなくなることは、この先もあまり考えられません。しかし、お金を持っていても、今回の被災地のように物がなければ手に入れられない時があります。大規模な災害が生じた場合も、日本周辺で軍事的な紛争が発生し、輸入食料を運んだ船が日本に近づけないような場合も、このような危機は起こります。このためには、備蓄を持つことや、国内に農地などの農業資源を確保していくことが必要です。その意味でも、今回がれきに埋もれた農地の復旧が必要です。


1.今後の被災地についてはどうでしょうか?
 被害に遭われた方々は、今をいかに生きるかで頭が一杯で、明日のことなど、考える余裕もないと思います。しかし、いずれ、今回のような被害を二度と起こさないような地域を作るため、堅牢な家屋を建設する必要があるでしょう。雨露をしのぐ、目前の家屋も必要かもしれませんが、拙速に家屋を建設するだけでは、再度の大被害を免れることはできないでしょう。
 また、東北地方は、我が国有数の食料基地です。しかし、日本の農業・農村については、これまで無計画な土地利用によって、まとまって存在していた農地の真ん中に住宅、倉庫、工場、市役所などが建設された結果、周りの農地は日陰となるなど、農業生産、ひいては食料供給に支障を生じています。このような無秩序な土地利用は、景観をも著しく損ねてきました。都市的な地域が無秩序に農村部に張り出していくという戦後の乱開発は、国民から美しい農村風景を奪ってきました。このような視点も必要だと思います。
 名古屋市では、戦災によって、路の狭い古いまちのままだった名古屋の中心部が破壊されました。復興にあたっては、約280の寺とその墓地を一か所に強制的に移転するなどの荒療治を行いながら、2本の100メートル幹線道路を整備するなど、整然とした町並みを持つ本格的で大規模な都市改造を行いました。


2.具体的にはどのようなやり方がありますか?
 今回の震災についても、拙速に復旧活動を行うのではなく、明日のあるべき地域の在り方について住民の間で十分に意見を交わし、しっかりした土地利用計画の下で、災害に強い強固な建物と地域を建設していく必要があるでしょう。このためには、個別の土地所有権についても、住民間の十分な話し合いを尽くして、見直すことも必要でしょう。幅員の大きい幹線道路を整備したうえで、住宅地は一か所にまとめ、建物は鉄筋の高層集合住宅にし、間に住宅などのない、まとまった規模の農業用地を創造すれば、災害対応にも食料安全保障にも美しい農村景観にも、貢献できます。
 ドイツでは土地利用計画がなければ、建物も建てられません。しっかりした復興計画を樹立し、その実施に必要な費用については、被害に遭わなかった者も含め、国民全体で負担していくべきです。そうすれば、いずれ東北は、我々国民全体に、美しい農村・田園風景と豊かな農産物の実りをもたらしてくれることと思います。