コラム  外交・安全保障  2011.04.07

アフガニスタンは再び転機を迎えている

『日本戦略研究フォーラム季報』春号 Vol.48(2011年4月1日発行)に掲載

日本の貢献と未だ続く政情不安
 米国など多国籍軍がアフガニスタンへの進攻(法的には「自衛権の行使」)を開始してから今年の秋で満10年となる。この期間を大きく前半と後半に二分すると、前半では、国際社会の協力が次々に成果を上げていった。タリバーン政権が多国籍軍による攻撃の翌月にあっけなく崩壊したこと、その直後にボンで開催された国際会議で新政権としての安全の回復と復興が始まったこと、2004年に新憲法が公布され国家体制が確立されたことなどである。この間、日本は諸軍閥の武装解除(DDR)を担当して成功し、また、復興・開発のために国際会議を開催すると共にみずから巨額の援助を提供した。
 しかし後半においては、政府から追われ山岳地帯へ逃れて武装闘争を展開していたタリバーンが反攻に転じ、これへの対応に多国籍軍(以後自衛権の行使を行う部隊とアフガニスタンの安定化支援のためのISAFを区別する)が苦慮する場面が多くなり、また、最近は一般住民の中でも外国兵に対し敵対感情を抱く者が増加してきた。
 私は2007年の初頭、首都カブールを訪れた。ちょうど前半から後半への端境期であったので、カブールで会う人ごとにタリバーンとの戦いの見通しを尋ねたが、特に印象的であったのはISAF司令官(英人)と在アフガニスタン米大使の説明であった。
 ISAF司令官は、タリバーンの抵抗は執拗に続いているが、活動が再開する春以降(真冬は寒すぎて行動できない)ISAFとして全力でその鎮圧に当たる方針であり、兵力を増強すれば戦いに勝てると、力強く語っていた。ISAFの司令官としての立場から出た発言であったことを斟酌して聞く必要はあるが、かなり楽観的な見通しであったことは間違いない。
 一方、米国の大使は、アフガニスタン派遣米軍司令官の観測であるとしつつ、状況はかなり深刻であり、膠着状態が長期化する可能性は排除できないと、違ったトーンであった。このようなことを言っていたのはこの人だけであったが、私は、ひょっとすると実際の状況はもっと悪いのかなと思ったことを覚えている。
 カブールから帰国して以来、タリバーンとの戦いがどのように展開していくか、強い関心を持って情勢をフォローしてみたが、春になっても事態は好転しなかった。翌年になると状況の悪化が目立つようになり、カブール市内も危険になってきた。最高級のセレナ・ホテル(と言っても外国人が泊まれるのはそれくらいしかないのであるが)は、私が宿泊したときは平穏であったが、約1年後ノルウェーの外相一行が滞在中には自爆テロの攻撃を受け、死者も数人出た。更にその翌年にはこのホテルがロケット弾の直撃を受けたのだ。

米国のアフガニスタン政策
 2009年2 月、米国ではオバマ新大統領が就任したが、そのときは既にアフガニスタン問題が最大の軍事外交案件になっていた。イラクについては、オバマ大統領は就任直後に14.2万人の米軍兵士を2010年8月末までに撤退させると発表し、これはほぼこのとおり実行され大問題の1つが片付いた。
 アフガニスタンについては2009年11月、逆に3万人の兵士を1年ないし1年半の間に増派すると発表した。これが実現するとアフガニスタン派遣の米兵の数は約10万人となるが、オバマ大統領は増派と共に撤兵についても方針を明らかにし、本年の7月から開始すると言っている。つまり、この増派は最終的にアフガニスタンから米軍を撤退させるために必要なこと、「出口戦略」ということである。
 一方、警察の強化(実質的には創設に近い)は復興の主要な柱の1つとして、日本も含め各国が重点的に協力してきた結果、現在警察官の数は約9万人に達しており、今後更に16万人まで増強される予定である。しかし、急ごしらえであったため警察官の質は低く、麻薬使用、逃亡などが後を絶たない。中でも問題なのは汚職がはびこっていることである。装備も粗末であり、ユニフォームやヘルメットなども十分に支給されていないそうだ。
 このような警察ではタリバーンのテロ攻撃に対処することは困難だというのが大方の見方であろうが、米国はイラクで4200人以上もの若者を失い、アフガニスタンでも既に1500人近い犠牲者を出しているため世論は嫌気がさしており、撤兵は不可避なのであろう。

戦略に欠かせない真実の追究
 私は軍事には素人であるが、このような状況を前にしていくつか思うことがある。
 第1 に、戦争の実情は分かりにくいということである。戦場がどのような状況にあるのか知っているのはそこで戦っている人とそこから正確な報告を受けている人だけであり、一般人は軍や政府の説明を聞くしかないが、それを聞いても本当のことはよく分からない。このことは昔から存在している問題であるが、現在の世界でも本質的には変わっていないわけであり、我々一般人としては関連の状況などを考え合わせて自分で判断する他ない。
 第2 に、米軍ではほんとうの状況をかなり正確に把握し、また現実的な見通しも持っていたと思われる。ISAFの側でも情勢認識を共有していたはずであるが説明が異なっていたのは司令官の個人的性格によることであったのか、あるいは米軍の認識を語ってくれた人が私と同じ外交官だったためか、はたまた、いずれでもない別の理由によるものか、真相は分からない。
 第3 に、米国はアフガニスタンでの戦いの目的を達成できないまま、方針を変更して駐留軍を撤退することにしたのであり、そうなると、多数の米兵が犠牲になったことについて国内で感情的な反発が起こり、例えば、彼らは「無駄死にした」と思う人が出てきても不思議ではない。実際にもそのようなことはある程度起こっているが、国家としてはそのような感情に流されず冷静に対応できるようである。米国は専制国家でなく世界でもっとも民主的な国の1つであり、政府に反対する意見も強烈であるが、このように冷静に振舞えるのはすごいことであると思う。

今後のアフガニスタン-国際協力は
 アフガニスタンはこれからどうなっていくのか。また、国際社会の協力はどうあるべきか。米軍が撤退し、またそれに続いてNATO軍が撤退すれば、弱体でガバナビリティに問題があるカルザイ政権が穴を埋められるか、大きな混乱が発生するのではないか、懸念される。しかし、アフガニスタンが以前よりかなり回復しているのは事実であり、悲観論一色で見ていくのは妥当ではない。現地人によって打ち立てられた新政権が自立し、国際社会と協調していける道を拓いていくことはベトナムなどにも例がある。
 国際社会としては今後これまで以上に民生支援を重視していくことになり、それを円滑に実施していくために必要なアフガニスタン警察の一層の強化を含め、アフガニスタン政府と共同で可能な協力を探求していかなければならない。日本は2009年に5年間で50億ドルの支援を表明しており、その実行は決して容易なことではないが、民生支援を重視してきたこれまでの経験を活かして有意義な協力を実現していくことを期待したい。
 米国の言論にはアフガニスタン分割論、つまり、タリバーンの支配地域と政府のコントロール下にある地域を分けて別々に統治する案さえ出てきている。これは極端な議論であるが、フォーリン・アフェアーズ誌にも掲載されているのを見ると、あながち非現実的な考えではなくなってきているのかもしれない。アフガニスタンの状況は民主的政権樹立から10年を経て再び大きく変わろうとしているようである。