コラム 外交・安全保障 2010.11.12
イランのアザデガン油田の開発権益を持つ国際石油開発帝石が撤退するそうである。従来通りの関係を続ければ、米政府がイランの核兵器開発疑惑に関し近く発表する制裁措置において制裁対象企業のリストに入れられ、米国の金融機関・企業との取引や共同開発ができなくなる恐れが出てきたためである。
同社は日本の民間企業であるが、経済産業大臣がその株式の3割を保有しているので、米国の制裁措置に協力するか否かは政府間の問題ともなっており、日本政府は同社が制裁措置の対象とならないよう働きかけたが、米側の態度は硬かったそうだ。
日本国内では、米国への協力はイランの核開発疑惑が原因なのでやむをえないという見方が大勢であり、また、アザデガン油田からの日本勢の撤退には商業上の考慮も裏にあったと言われている。実情は複雑なのであろう。本件は米国との付き合い方を考えさせられるケースである。
イランの核開発についてはこれまで米、英、仏、ロ、中およびドイツ(米を含めていわゆるP5+1)が中止させようと交渉し、また、安保理やIAEA(国際原子力機関)も何回か取り上げてきたが、なかなか進展しない。米英仏独は基本的に同じ考えであり、イランが査察に対して積極的に応じないのであれば制裁措置を強化する必要があると主張してきた。一方、中国とロシアは安保理で強い措置を取る必要がある場合でもぬるま湯的なことしか協力しようとせず、説得にもなかなか応じない。そのうちに時間がたってしまうということを繰り返していた。
このような状況を続ければ核開発が手遅れの段階まで進展してしまう恐れがあるので、米国は制裁措置の強化が急務と考え、各国にもそれぞれ相応の措置を取るよう要請するようになった。日本、韓国、EUなどはすでにそれぞれのとるべき措置を発表済みか、準備中である。米国は各国に協力を呼びかけつつ自国の制裁強化措置を取ると発表したのであり、現段階では米国は各国と足並みをそろえて対応しようとしている。
しかし、米国は抜群のパワーを持つだけに国内措置であっても各国にさまざまな影響を及ぼす。日本がアザデガン油田の開発から撤退することになったのもそのためであるが、よく見えない部分がある。たとえば、日本が撤退した後その権益は中国が獲得することになると言われているが、米国の制裁対象に中国の企業は含まれるのだろうか。中国企業にとっても米国金融機関との取引ができなくなるのは大きな痛手になるはずである。もし中国の企業が対象とならないのであれば、どういう理由によるのであろうか。
ロシアはかねてからイランの核開発に協力している。ロシアが協力しているのは原子力発電など平和的利用の面であるが、それでも核兵器の開発につながる可能性がある。ロシアは米の制裁強化でどのような不利をこうむるのであろうか。
米国についても表面には必ずしも出てこない部分があり、核開発だけでなく他の要因が影響している可能性がある。米国のイラン政策の背景にはイランがそもそもイスラエルの存在を否定しているという大問題があり、イランは最近も挑発的なことを言っている。イランは米国の外交官を人質にとったこともある。たしかにイランの行動には問題があるが、イランの側にも米国にいろいろと不満があるようだ。
ここまでは外交の範囲内である。しかし、米国がさらに強硬な行動、とくにユニラテラリズムと批判されるような実力行使に出ると、イランとの関係が米国と異なる日本や西欧諸国は大変な難問に直面することとなる。イラクの場合、米国は国際的査察がまだ進行中であったにもかかわらず、それでは埒があかないとして開戦に踏み切った。そのように極端なことはそうそう起こらないという見方もあろうが、イランは米国にとってイラク以上に危険な存在である。米国には、一部だけのことかもしれないが、イランを悪者と決め付けることが積極的に評価される風潮があり、ブッシュ政権時代それがとくに顕著であった。
オバマ政権は当初イランとも対話する姿勢を見せ、また、これまでのところ各国とも協調しながら行動しているが、フラストレーションは募っている。ユニラテラルな強硬策に出ることはないだろうか、懸念は払拭できない。