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「APECと食料安全保障」
メディア掲載 グローバルエコノミー 2010.09.16
「APECと食料安全保障」
NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2010年9月7日放送原稿)
山下 一仁
研究主幹
1.来月の16日から17日にかけて、APEC(アジア太平洋経済協力)としては初めて、各国の食料安全保障を担当している大臣の会合が新潟で開催されます。また、これに先立ち、先月中旬に台北でAPECの食料安全保障フォーラムが開催され、各国の代表とともに、台湾政府の招きにより、これに参加して食料安全保障と貿易の関係について意見発表をされたようです。まず、食料安全保障担当大臣の会合を開くこととした日本政府の意図はどのようなものでしょうか?
農林水産省の文書は次のように述べています。飢餓と貧困に苦しむ人口が2009年に10億人を超え、2050年までに農業生産量を70%増加させる必要があるなど食料問題が世界的な課題となっている。 APEC地域においても、①減少したとはいえ多くの栄養不足人口を抱える、 ②世界の食料生産と貿易の中心である、 ③価格高騰時に抗議行動が生じた、④地震や洪水などの自然災害の影響を受けやすい等の特徴から、食料安全保障の確保は、同地域の持続的発展を図っていく上で重要な課題である。 (2010年は我が国がAPECの議長国であり、この機会にAPECとして初めての食料安全保障担当大臣会合を開催する)としています。
ご存知のように、日本の農業は米に代表されるように、高い農産物の関税によって保護されています。この高い関税はWTO交渉や二国間の自由貿易協定、すなわちFTA交渉で貿易相手国から批判されてきました。食料安全保障の主張はこれまで国内農業を守るために貿易の自由化に反対する理由として使われてきました。開催地をコメどころの新潟にしたのも、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、タイなど農産物貿易の自由化を迫ってきたAPECの国々に高い関税の維持に理解を得ようとする思惑があるように感じます。
2.世界の食料の生産と消費、食料貿易の実情はどのようなものとなっているのでしょうか?
消費の面では、人口が今の約70億人から2050年には90億人に増加すると言われ、また途上国で経済が成長し所得が増加すると、穀物を使用して生産される肉や乳製品への需要が高まり、穀物への需要が大きく増加することになります。またエタノール生産が増加すると原料となるトウモロコシやサトウキビの需要も増えます。生産については、土壌流出や水資源の枯渇などを心配する声がある一方で、ブラジルに多くの開発可能な土地があることや技術進歩による収量の増加によって必要な食料を供給できるという声があります。貧困なために食料を買えないという途上国の人たちもいますが、他方で肥満を心配しなければならない先進国の人たちもいて、世界の食糧事情はこの40年間基本的には生産が消費を上回って来ました。しかし、この中でも、1973年には世界的な不作で穀物価格が3~4倍に上昇しています。このとき生産は3%しか減少していないのですが、貿易に回る量は生産の10%程度なので、貿易量は大幅に減少し、価格が高騰したのです。1993年には米不作になった日本が、国際的な貿易量が1000万トンから2000万トン規模の国際市場から250万トンの米を輸入した時、世界の米価格は2倍に上昇しました。最近では2008年に世界の穀物価格は高騰しました。農産物の生産は天候や自然に左右されるので、過剰基調の中でも不足が起きます。
しかも、国際市場で価格が上昇すると、輸出によって国内の供給が減少して価格が上昇し、消費者の家計を圧迫してしまうことを恐れる輸出国の政府は、輸出税や輸出禁止を行うことで、国際市場への供給を制限します。これによって国際価格はさらに上がってしまいます。
3.日本は大丈夫なのでしょうか?
国際価格が上がっても日本が買えなくなるという事態はしばらくの間は考えられません。しかし、お金を持っていても買えなくなる時があります。それは輸出国で大規模な港湾ストライキが起ったり、我が国周辺で軍事的な紛争が起こって、日本に食料を輸送できなくなる場合です。このような事態が起こることは確率としては少ないかもしれませんが、有事への対応を考えておく必要があります。
4.どうすればよいのでしょうか?
当面は食料の備蓄で食いつなぐとしても、それが底をついてしまったら国内で生産せざるを得ません。そのために必要なものは農地面積ですが、米の減反政策などによって農地は1961年の609万ヘクタールから461万ヘクタールに減少しています。これまで貿易の自由化に反対して国内市場を守ろうとしてきましたが、いくら高い関税で国内市場を守っても、その市場は高齢化による一人当たりの消費量の減少に人口の減少が加わるので、どんどん縮んで行ってしまいます。これに合わせて生産していくと農業は縮小し、農地も減少していきます。
米の減反を廃止したうえで農業の構造改革を推進し、日本の米などの農産物の価格競争力が高めれば、発展するアジア市場に輸出できるようになります。平時には米を輸出してアメリカ等から小麦や牛肉を輸入すればよいのです。食料危機が生じ、輸入が困難となった際には、輸出していた米を国内に向けて飢えをしのげばよいのです。こうすれば平時の自由貿易と危機時の食料安全保障は両立します。というよりも、人口減少により国内の食用の需要が減少する中で、平時において需要にあわせて生産を行いながら食料安全保障に不可欠な農地資源を維持しようとすると、自由貿易のもとで輸出を行わなければ食料安全保障は確保できないのです。これまで食料安全保障の主張は、高い関税の維持、貿易自由化反対のために、利用されてきました。これからの人口減少時代には、自由貿易こそが食料安全保障の基礎になるのです。
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