コラム  外交・安全保障  2010.07.02

NPT再検討会議

 先月(5月)、5年に1回のNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議が開かれた。4週間の長丁場であるが、これでも以前より少し短くなっているそうだ。巨大で複雑な会議であり、しかも特別の業界用語が飛び交うのでその実態を知るのは容易でない。

 前回の再検討会議は2005年に開かれたが、会議の結論(最終文書)さえ採択されず、失敗であった。今回、最終文書は採択され、成功であったと言われているが、はたしてそうだろうか。このように複雑な会議となると一つの尺度で測ることはできない。

 核兵器に関する最大の国際的課題はそれを廃絶することであり、そのつぎに大きな課題は それを使わないことである。他にも論点は多々あるが、私は、廃絶が横綱だとすれば、不使用は大関だといつも説明している。廃絶が究極の目標であることは言 うまでもないが、それが実現するまでの間、使用しないことはきわめて重要である。しかし、そこには微妙な問題がある。

 今回のNPT再検討会議では、横綱については一定の前進があったと言えるだろう。外務省が発表している「会議の概要と評価」もその点を強調しているし、また新聞などにも広く報道されており、ここであらためて解説する必要はない。

 しかし、大関については、外務省の評価も各紙報道もどうなったか何ら説明していない。 「大関」というのは私が勝手に使っている言葉であるが、それが核についての主要問題であることはNPTの歴史において一貫して認められてきたことであり、 今回の再検討会議の準備会議(と言っても2週間もかかった大会議であるが)においてもそれが主要問題の一つであることは合意されていた。

 では、今回の再検討会議で不使用問題はどう処理されたか。不使用問題と一言で言って も、関連することは複数あるが、ハードコアの問題は核兵器を持っていない国に対する核攻撃を禁止すべきであるという主張であり、この問題は「消極的安全保 障」と呼ばれている。「消極的」というのは「いやいやながら」という意味あいではなく、「核攻撃しない」と否定的文章で表現されることだからである。

 この点に関する会議の結論は、"The Conference reaffirms and recognizes that the total elimination of nuclear weapons is the only absolute guarantee against the use or threat of use of nuclear weapons and the legitimate interest of non-nuclear weapon States in receiving unequivocal and legally binding security assurances from nuclear weapon States which could strengthen the nuclear non-proliferation regime."であった。

 少し解説を加えると、that以下の「核兵器の全廃は、その使用や使用するという脅しに対する唯一の絶対的保障である」というのは、核兵器がなくならない限りその危険が完全になくなることはないということであり、いわば当然のことを述べている。

 一方、the legitimate interest以下の「非核兵器国が明確で法的に拘束力のある保障を核兵器国から受けることへの正当な関心」については会議でどのように扱われたか、文 章が明確でない面があるが、「会議は(そのような関心を)再確認しかつ認める」と読むべきものである、つまり、that以下とthe legitimate interest以下は同列になっていると読むべきであることを会議に出席していた人に確認してもらった。

 これは重要な結論である。非核兵器は将来も核兵器保有を禁止されるのを受け入れる一方、核兵器を持つ国に対しては核攻撃しないことを約束してほしいと切望してきた。消極的安全保障は核兵器を持たない国の悲願であったのである。

 これに対し、核兵器国はNPTの成立以来お茶を濁す対応しかしてこなかったが、 1995年と2000年の再検討会議で一定の進展が実現した。問題が解決したわけではないが重要な進展であった。ところが、その直後に登場したブッシュ政 権時代、この問題を含め困難な交渉から絞り出されてきた貴重な進展が無視されるようになってしまった。今回の会議の結論はそのようにひどい扱いを受けてい た問題を10年前の状態に戻すものだからである。「戻した」と確定的に言えるかどうか、やや疑問の余地があるが、細かいことはここでは言わない。

 このように考えれば、消極的安全保障についての合意を今回の再検討会議のもう一つの成 果としてPRしてよいのではないか。日本政府の立場は少し違うかもしれない。しかし、この消極的安全保障は「NPT体制の強化に資する」と積極的な意義を 持つことであることが各国によって認識されており、今回の会議においてそのことがあらためて再確認されたことは重要なことであろう。