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「農業ベンチャー」
メディア掲載 グローバルエコノミー 2010.07.02
「農業ベンチャー」
NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2010年2月23日放送原稿)
山下 一仁
研究主幹
1.今月「企業の知恵で農業革新に挑む」という本を出版されましたが、その中でアルゼンティンなどでは農業ファンドというものがあると書かれていますが、これはどのようなものでしょうか?
農業ファンドとは、不特定多数の人達からお金を拠出してもらい、それを農業に投資して、利益があがれば、投資した人に配当として還元するというものです。アルゼンティンの農業ファンドは、こうして集めたお金をもとに、農地や農場を所有する会社に出資して、農場の経営や耕作は第三者に任せています。農場経営者は、大豆、サトウキビ、飼料(肉用牛生産)などの作物について、農産物市況を見ながら、何をどれだけ生産するか、何人雇用するかなど、経営を完全に任されているのです。経営が成功して高い収益を上げることができれば、ファンドも農場経営者も応分の利益を得ます。かれらは、「所有と経営の分離」によって、高い収益を挙げています。
2.我が国では、このような農業ファンドというものはあるのでしょうか?
一部に農業ファンドが出てきましたが、農業法人に出資して農業経営を行わせるという本格的なものは少ないように思います。
3.どうして、日本では農業ファンドが普及しないのでしょうか?
それは、農地法という規制があって、農家が法人になったような場合しか株式会社による農業を認めてこなかったからです。
それを説明する前に、農業には、どれほどの資金が必要となるかについて考えて見たいと思います。私がインタビューした農業と関係のある企業は、「農業は装置産業だ」と言っていました。装置産業とは、一定量の生産のために、巨大な装置が必要になる産業です。農業にとって装置としては田や畑という農地がまず考えられます。農地の性能がよくなければ、作物の生産性はあがりません。地面があるから、そこに何か植えれば、それで収穫ができるというものではないのです。肥料や農薬などの運転費用も当然必要ですが、堆肥を入れたり、土の腐食化を図ったりして土づくりをして、さらに、暗渠や明渠など、土木的な措置を施して、田や畑を作り上げていかなければなりません。そのための初期投資が必要になります。また、田植え機、トラクターやコンバインなどの機械への投資も必要です。農業には、極めて大きな先行投資が必要になるのです。
それだけではありません。農業を始めて、すぐに作物は収穫できません。農業には技術が必要です。今まで工場で働いていたから、マニュアルどおりに農業ができると思ったら、間違いです。農業を始めた人は技術を取得するために、農業法人などで数年間働いています。また、技術を持っていても、土地の条件や周りの環境によって肥料や農薬のやり方など微妙な調整が必要ですし、仮に上手くいったとしても、天候によって作物が収穫できないことも覚悟しておく必要があります。はじめてから数年間は収入がないことを見越して生活資金を用意しておかなければならないのです。
4.では、農業を始めようとする人たちは、どのようにして、資金を調達しているのですか?
銀行などからの借金です。お金を出すほうからすれば、融資です。本来装置産業の場合は、長期の資金を頼りに設備投資をして、その設備によって生産性を高めて、競争力をつけていきます。そのために必要な資金というのが、金利のつかない投資資金、すなわち出資なのです。融資の場合には元金と利子を返済しなければなりませんが、出資の場合には、失敗したら返す必要はありません。リスクの高い事業を行おうとする一般企業の世界ではそれが常識です。
ところが、農業の担い手たちは、必要な資金もリスクも高いのに、運転資金も設備投資の資金も借金で賄うしかないのです。親類縁者に出資してもらい株式会社を作って、農業に参入することはできません。それは、農地法が企業による農業参入にきわめて厳しい制約を課しているからです。地主から農地の所有権を奪って、それを小作人に与えて、自作農にした農地改革の成果を固定しようとしたのが、農地法でした。農地を所有するものが、耕作・経営すべきだという「自作農主義」と言われる考え方です。株式会社の所有者は、株主です。株式会社が農地を耕作して農業を営めば、農地の所有者である株主と、耕作する農業者、農業経営者は一致しなくなります。世の中の批判を受けて、やっと認めたものの、農家が法人成りするような、株主もほとんどが農家・農業関係者であるような場合しか認めませんでした。したがって、若者が、親や友達に出資してもらい、株式会社を作って、農地を取得し、農場を経営することは、その親や友達が農業に従事しない限り、認められません。日本の農政は、「所有と経営の分離」を認めていないのです。これが、日本で農業ファンドが発展しない大きな理由だと思います。
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