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「農業の規制緩和について」
メディア掲載 グローバルエコノミー 2010.07.02
「農業の規制緩和について」
NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2010年4月20日放送原稿)
山下 一仁
研究主幹
1.4月から政府の行政刷新会議の中の規制・制度改革に関する農業グループの委員に就任されたようですが、これはどのような委員会なのでしょうか?
行政刷新会議では、いわゆる事業仕分けと並んで、規制や制度の改革についての分科会が設置されました。この分科会では、医療・介護、環境・エネルギーとともに、農業についてもワーキング・グループを設置して、農業に関する規制や制度について見直すこととされました。これまで2回ほど議論をしたところであり、5月末か6月までに結論を出すことになっています。
2.農業が取り上げられたのは、どのような理由でしょうか?
農業は国民へ食料を安定的に供給する役割を果たしているのですが、農業者のうち二人に一人は70歳以上であるなど高齢化が進み、また食料自給率は40%に低下するなど、農業の衰退傾向に歯止めがかからない状況になっています。しかし、農業を成長産業とするために活性化しようとしても、農業についての規制が足かせとなる可能性があります。農業政策は長年にわたって形成されてきたために、時代遅れのものもあるし、規制や制度によって守られているために既得権を持つ人たちの抵抗もあります。ある委員はこれをヘドロのようだと言っていました。このような規制にメスを入れようとしているのだと思います。
3.どのような問題があるのでしょうか?
まず、検討の視点としては、意欲ある多様な農業者の参入を促進すること、つまり新しい血をいれるということです、次に、農地資源の確保と有効利用、農協の機能や役割の検証などが、掲げられています。大きなテーマとしては、二つのものがあるのではないでしょうか。
一つは農地制度であり、もう一つは農協制度です。
農地法は、戦後の農地改革の成果を固定することを目的として作られたものです。農地改革とは、地主から農地を取り上げて、高額な小作料を徴収されていた小作人にただ同然で農地を譲渡したものです。これによって小作人はいなくなり、農地を耕す人が農地の所有者となりました。これは所有者が耕作すべきであるという自作農主義という考え方です。農家であれば、経営も耕作も同一の家族が行いますから、所有、経営、耕作の三位一体の形を理想とするものです。
しかし、一般の株式会社の場合は、農地の所有者、つまり会社の所有者は耕作も経営もしない株主ですから、株式会社に農地の所有権を認めることは、農地法の自作農主義の考え方に反してしまうのです。株式会社の参入を認めない農地法に批判が高まった結果、徐々に規制緩和が行われてきましたが、原則として農業関係者が議決権の4分の3以上を持つなどの厳しい要件を満たす株式会社しか、農地の所有権取得は認められていません。つまり、基本的には農家が法人なりしたような場合しか認めていないのです。これは、大企業が参入すると、農地や農村を荒らされてしまうのではないかという懸念に答えたものです。
しかし、株式会社とは大企業だけではありません。ふつう、若い人がベンチャー企業を立ち上げようとするとき、親、兄弟、友人から出資をして株式会社を作れば、失敗しても頭を下げるだけで済みます。しかし、農業の場合には、出資した人が農業関係者でなければ、株式会社による参入は認められないのです。したがって、資金のない若い人が農業をしようとすると、銀行などから融資をしてもらうしか、道はありません。成功すればよいのですが、失敗すれば借金が残ります。農業参入はリスクの多い事業となるのです。これから農業グループのメンバーと議論していく必要がありますが、大企業とは違う、このような小さい株式会社には農業への参入を認めてはどうかというのが私の考え方です。
4.農協については、どうでしょうか?
日本の農協は、諸外国の農協とも、生協や中小企業の組合など国内の他の協同組合とも異なる性格を持っています。それは、農業関係の事業だけではなく、保険事業や、他の協同組合には認められていない金融事業など、農業、農村のほとんどすべての事業を包括的に行っている組織です。また、1地域1農協が原則とされた結果、地域では独占的な地位を占める場合が多くなっています。これは今のJAという農協は、農家によって自発的に作られたのではなく、1930年代、昭和の経済恐慌から農村を救うために1町村1農協という形で農林省によって作られ、これが戦時中は統制団体として活用され、それが戦後はJAに引き継がれたという経緯があるからです。
しかも、これが、制度や規制で保護されています。農家が自発的に農協を作ろうとしても、JAの連合会と協議しなければならないため、容易には認められません。また、農協は他の協同組合と同様、独禁法の適用を除外されています。しかし、生協のような小さい組織が団結するために、このような取扱いを認められることは理解できても、肥料の販売では8割のシェアを持つ農協が独禁法の適用を受けないのは、極めて不合理だと考えられます。
農業グループではこのような問題を議論することとしています。
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