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「農協と独占禁止法」
メディア掲載 グローバルエコノミー 2010.06.11
「農協と独占禁止法」
NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2010年5月18日放送原稿)
山下 一仁
研究主幹
1.農業協同組合はカルテルなどの行為を禁止した独占禁止法の適用から除外されています。今回行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会の農業ワーキング・グループで、この適用除外を見直そうという議論がなされています。農業ワーキング・グループの委員として、この検討状況についてお話を聞きたいと思います。まずは、この制度について、簡単に説明してください。
独占禁止法では、共同して生産したり、販売したりすることなどで競争を制限することは原則として禁止されています。しかし、小規模事業者等が協同組合を組織する場合には、同法の適用除外となっています。これは、単独では大企業に伍して競争していくことが困難な小さい事業者や交渉力の弱い消費者が、共同して生産や販売、購入をすれば、形式上は独禁法に違反することになります。このため、このような事業者などが互いに助け合うことを目的とした協同組合を組織した場合には独禁法の適用を受けないようにして、市場で有効に競争したり、取引したりすることができるようにしようとしたものです。適用が除外されている組合には、農協のほか、消費生活協同組合、中小企業等協同組合などがあります。
なお、これらの組合であっても、ほかの事業者と共同して特定の事業者との取引を拒絶したり、共同行為からある事業者を不当に排除したりするような「不公正な取引方法を用いる場合」又は「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引上げることとなる場合」は独占禁止法が適用されることになっています。すべてが適用除外ではないということです。公正取引委員会は、農業協同組合について、組合員に対して農業協同組合の事業の利用を強制する等といった問題行為がみられたことを踏まえ、平成19 年に「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」を策定・公表しています。
2.具体的にはどのような行為をしても独禁法の適用を受けないのでしょうか?
農協が独禁法の適用を受けない行為は、大きく二つの場合があります。まずは、他の事業者と共同して価格を決定したり、数量などを制限するなど、互いに事業活動を拘束することによって、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合、つまり、カルテルです。次に、他の事業者の事業活動を排除し、または支配することによって、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合、これを私的独占といいます、この二つの場合です。100円の農産物価格を150円にすれば不当に対価を引上げることとみなされて独禁法違反となりますが、カルテルで110円程度にしか引き上げない場合やダンピングによって競争者をつぶしたり、役員の派遣などで他の企業の事業活動を制約したりする私的独占の場合でも、農協は独禁法違反を問われない可能性があります。
3.農協はどのような主張を行っているのでしょうか?
外国でも協同組合については適用除外が認められていることや、生協や中小企業の事業協同組合についても、同様に適用除外が認められているという、いわゆる横並び論、独禁法の適用除外は経済的弱者である農業者が共同して活動できるようにしたものであり、これがなくなると共同した経済行為ができなくなるという主張が出されているようです。
4.このような農協からの主張については農業ワーキング・グループではどのような議論が行われていますか?
外国で協同組合について適用除外を規定しているものは、私の理解では、アメリカのカッパー・ヴォルステッド法という1922年に作られた法律があります。また、生協なども適用除外を受けていることは事実です。しかし、日本のJAという農協は、戦前からの歴史的な経緯から、金融事業を含めた広範な事業を制度的にも、実体的にも行えるようになっている協同組合です。これは、特定の農産物の販売だけを行ったり、肥料とかの資材の購入だけを行ったりしている欧米の農協とも異なり、また制度的に金融事業を否定されている国内の生協などの共同組合とも異なっています。金融事業をはじめとして農業・農村のすべての事業を行う農協については、独占的な地位が高まりやすくなります。
たしかに、小さな農家が集まって共同して生産したり、販売したら、形式上独禁法違反を問われてしまうというのは、問題でしょう。しかし、末端の小さい農協だけではなく、農協の都道府県レベルや全国レベルの連合会、全国農業協同組合連合会(全農)なども、独禁法の適用除外を受けることができるようになっているのは問題ではないかということで農業ワーキング・グループでは議論が行われています。JA農協の市場でのシェアは、農産物で見ると、米で50%、野菜で54%、牛肉で63%、農業資材の販売でみると、肥料77%、農薬60%、農業機械55%となっています。力の強い大企業に対抗できるように認められたのが、独禁法の適用除外ですが、現実には、大手の肥料会社よりも全農の方が市場支配力は勝っています。
5.今後はどのように進むのでしょうか?
農協については、この問題以外にも、他の銀行や信用金庫などの金融機関と同じように金融庁検査や公認会計士の監査を認めることや、新規農協を設立する場合に既存の農協の連合会と協議する必要があるという規制を廃止することなどの項目があります。これらを含めて今月各省の政務官レベルでの折衝が行われ、遅くとも来月には規制改革について政府・行政刷新会議での結論が出されることになると承知しています。
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